残雪と山菜と酒と温泉、
六日町満足泥酔紀行。……雲天編
(04年3月14日版 16日改訂)
よく食べた、よく飲んだ、しかし、よく働いた
3月11日。先日「ふるさとの味考」に書いたように、故郷の友クボシュンさんから誘いがあって出かけていった。
上越新幹線越後湯沢駅で上越線に乗り換え、六日町へ。列車が南魚沼の盆地に向かって下る。車窓から見える魚沼コシヒカリの田んぼは、まだ雪の下である。
正確には残雪期というには早すぎるが、かといって雪の「最盛期」はすぎた。雪はどんどん溶け、急な山肌は雪崩で露出し、雪国を見慣れたものにとっては、春が来たもおなじ残雪期の趣だ。
今回は、なんだかよくわからんが、沖縄から旅行に来るグループに、迎える六日町観光協会のクボシュンさんが酒を差し入れがてら宿へ行くのについていく、ということらしい。とにかく、おれとしてはなんでもよい、山菜が食べられて酒が飲めればよいので、詳しいイキサツなど気にせずについていった。
宿は、六日町ではなく隣の塩沢町、深田久弥の百名山の一つ巻機山(まきはたやま)の登山口にある清水という集落、民宿「雲天」である。
雲天については、いずれ詳しく書くつもりだが、親の代からの付き合いで、かつ、おれは六日町高校の山岳部時代から登山のたびに大変お世話になった。数え切れないほど、泊まっている。しかし、ここ20年ばかりは、おれはフラフラして落ち着かず、行っている余裕がなかった。久しぶりなのだ。
かつて雲天は、ここより清水街道ぞいに上った清水の集落のなかにあったが、この場所に、この建物を建て移ったのは、15年前だそうだ。だから、おれは初めて見る。間口5間、奥行き18間の「民宿」とはいえないような大きな建物だ。「明治15年に建てられた六日町の庄屋・廣田邸」を移築再生したものだそうだ。
さて、そういう話はともかく、雲天の山菜料理である。これは、雲天のとうちゃんとかあちゃんとならんで、清水と巻機のイメージをリードしてきた「名物」といってさしつかえないだろう。
まだ、周囲は2メートルぐらいの雪が残っていたから、山菜もキノコも昨年とったものを冷凍保存したもので種類が少ないが、まあとにかくうまいこと。たっぷりあること。沖縄からの10数名の若い人たちは、沖縄では山菜やキノコをたらふく食べられるなんてことはないし、よろこんで食べまくっていた。クボシュンさんが雲天を選んだのは、それがネライの一つだったのだろうと想像できた。
山菜料理は、写真のようにドッカンドッカン、これでもかこれでもかというほど出てくる。アユの塩焼き以外は、ほとんど野菜類だ。一晩で草食動物と化し、ウンコがちがってしまう。ま、これが、おれがガキのころの日々の食事だったのだが……。
たっぷりの山菜料理をつまみに、六日町の八海山をヒヤで、地元塩沢の高千代辛口をカンで、グイグイ飲む。ええですねえ。たまらんたまらん状態。
じつは、おれが八海山を覚えたのは雲天である。おれのウチでは八海山を飲んでいなかった、そんなむかしから雲天は八海山だったのである。なんに関しても好き嫌いがハッキリしていて一途なのだ。
囲炉裏をかこんでの飲みかつオシャベリは、とうちゃんやかあちゃんが寝てしまったあとでも、夜遅くまで好き勝手に続く。むかしから変わらぬ風景だ。
上の写真、右端の柱にかかっているのは、熊の毛皮である。これは、50年ぐらいはたっていると思うが、雲天のとうちゃんは熊狩の名手として有名である。なにしろ、60歳になってからも、逃げる熊を「うまそ〜」と追いかけて襲いかかり殴り殺してとってくるという、熊にとっては、とても人間とは思えないオソロシイ存在なのだ。
とうちゃんは熊の身体そっくりで、ふだんは眠そうな顔をしている。かあちゃんに追い立てられながらノソノソ動いている。それが、前に、おれが集落のはずれで熊を発見したことがあって、走りに走って知らせると、とつぜん態度が豹変し、目は、まさに金色にランランと輝き、すごい素早い勢いでしたくして飛び出した。あのときは、ビックリした。
沖縄の人たちに、熊料理を食べさせてやると言っていたから、二晩目には熊料理が出たことだろう。もう鉄砲を持って山をかけまわることはできないので、熊と知恵くらべやりながら、シカケで熊をとる方法を考えているといった。今回も、いろいろ熊との知恵くらべの話を聞いてきた。
ああ、とうちゃんの写真を撮ってくるの忘れた。右がかあちゃん。いつもガハハハガハハハ笑い、機関銃のようにシャベリ、鉄砲玉のように働き、イノシシのようにナニゴトかに夢中になり、いつも誰かのことを心配し、ときどき何かにすごく腹をたて……。
ところで、おれは今回は、そのようにクボシュンさんにのん気について行ったのだが、クボシュンさんは酒飲んで自分の家に帰ってしまい、おれは翌日の12日、沖縄グループについて、スキー場やそば屋や酒屋を案内したり、雪だるまの作り方を教えて雪遊びしたり、けっこう活躍だったのである。
うーむ、このとうちゃんとかあちゃんのそばにいると、どうやったらひとに「人間的によろこんでもらえるか」を考えて動くようになってしまうんだなあ。そういう空気が雲天には充満しているのである。そのかわり、とうぜんながら、「美人女将」が仕切るような大温泉旅館風の雰囲気やサービスはないし不要である。建物は豪壮だが、まえのまま小さな家庭的な民宿なのだ。
帰ってくると、すぐまたとうちゃんやかあちゃんに会いに行きたくなる。そういう、他には代えがたい魅力がある。そして何年たっても、再び会ってみたいひとがいるから、またそこへ旅するのである。古い大衆食堂とのつきあいと似たようなものだ。
地位向上委員会
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