残雪と山菜と酒と温泉、
六日町満足泥酔紀行。……ホテル宮又編


(04年4月10日版)

前回、万盛庵編を掲載したのが3月18日だったから、ずいぶん日にちがすぎた。まず、あれから、パソコンがイカレた。クソやろう。けっきょく、Cドライブを初期化して、ふりだしにもどす作業でジタバタした。

正常化しヤレヤレと思ったら、4月に入ってからという見通しだったちくま文庫の初校が出た。4月5日まで約2週間、実質10日ぐらいで仕上げなくてはならない日程。あれっ、なんでトツゼン急ぐのか? よく考えたら、汁かけめしのよい季節はいつでしょうか、というような編集担当者のメールがあったので、そりゃ夏でしょう、とか返信した記憶がある。それで、ソリャ夏までに出そうということになったのだったかな?と、思う。(その本は「汁かけめし快食学」というタイトルで7月発行の予定で、いますすんでいる)

初校で1か月ぐらいかけて、ああでもないこうでもないやるつもりだったが、一気にやらなくてはならない。それもまたよきかな。と、ガンガン校正をこなし予定どおり仕上げたはいいが、トシだ、疲れた。クタビレ果てた。ふんとに、ライターというのは肉体労働だぜ。

40歳ちょいすぎぐらいだったと思うが、ある出版社の編集者から本を出さないかと持ちかけられたことがある。そのときは、えええーっとーんでもない、本を書くなんて隠居ジイサンのやることでしょ、と、即座に断った。ライターなんか、あんなもの原稿用紙にむかってリクツこねまわしてなにが面白いのだ……という気持があった。まだプランナー稼業でバリバリやっていたし、マーケティングの現場は面白かった。まさか、ライターになるとは思わなかった。そしてライターシゴトが、こんなに肉体労働だとは、知らなかった。

ありゃりゃりゃ、何を書いているのだ、ホテル宮又の話じゃないのか。そうだ、3月12日、万盛庵で同期生と飲んで笑い転げ、グテングテンに酔って、しかし、まだチェックインしてないホテル宮又へ、11時までに入る約束だったので、もうどうせそろそろ解散の時間だし、中座したのだ。

ホテル宮又は、もう何度目か忘れたが、万盛庵に着いてから電話で宿泊予約をするときに、「ときどき泊めてもらっている遠藤です」というと、すぐわかったから、どうやら覚えてもらったらしい。なにしろ、いつも泥酔状態でのチェックインだから、それも覚えられやすい理由かもしれない。それに前回、去年の11月だったかには、帰るつもりで朝チェックアウトしたのに、その夜また万盛庵で飲みすぎて終電を逃してしまい、けっきょくまた11時ごろになって、やっかいになったからな。

ホテル宮又は万盛庵から這っても行ける距離にある。ほんの数十メートル。「ホテル」だの「チェックイン」だのシャレたことをいっているが、じつは、ほんの、むかしなら商人宿、いまはビジネスホテルというね、ま、そういうもので、しかも家族だけでやっているから民宿みたいなものである。

例のコケオドシ的温泉旅館ではなく、まあ、むかしコンクリートで建てると補助金が出た時代があったけど、たぶんそのころ建てたに違いない、古い3階建ての見た目はコンクリート建築だが、なかはシッカリ木造の、もう古びた柱や階段や畳がなんとも素で、いいかんじで、いいんですねえ。

ほらほら、玄関のドアを開けると、いましたいましたニタリのオバアサンが。ニタリと、人懐っこいホホエミ。おや、こんな遅くに、到着したばかりのお客さんもいました。ダークスーツをピシッと着た、いかにも出張サラリーマンという若い男。えらい!若い男、いい旅館に目をつけた。あんたは出世する。若い男は、どうやら素泊まりらしい、素泊まりは料金先払いなのである。ニタリのオバアサンは、料金を受け取ると、「遠藤さん、ちょっと待っていてください」といって、よっこらしょよっこらしょ、若い男を案内していった。

と、書いていると、長くなるな。宮又のことは、前にもちょっと書いているから、もうやめよう。よい旅館だ。

安い、朝食つきで、4000円か5000円だ。朝めしが、うまい。そうだ、万盛庵で飲みながらケチョンケチョンにけなした某豪華高額温泉旅館だが、誰かが「あそこの朝めしなら、宮又の朝めしのほうがいい」といったのだが、まさにそうなのだ。

それに、かけ流しの温泉に24時間いつでも入れる。この風呂には、まったく、あのゴテゴテでかいコケオドシ温泉風呂のような、無駄なものがない、ただの温泉の風呂である。もりそば、かけそばのようなものである。

おれのようなビンボウニンだけが泊まるのかと思ったら、以前には、サイドカー付のハレー三台の三人連れが堂々と泊まっていた。うーむ、旅なれたひとは、やはりこういうところに泊まるのだろうか。とにかく、まあ、おちつけるのだ。こういうところに泊まる素の旅は、旅情というものをシミジミ味わえてよいですな。

部屋からの眺めもいい。写真を見てちょうだい。


(いま橋の工事中。左、坂戸山。右、金城山)

さて、それで、朝目覚めて温泉につかり、食堂で朝めしを食べた。うまい朝めしの話は、まあいいだろう、前にも書いたように、とにかくどんなに二日酔いでも、めしが2、3杯、あっという間に食べられる。今回は、ビールも飲んだ。朝風呂してビール、うまいめし、もう最高ですね。

その話じゃない。味噌汁を運んでくれたニタリのオバアサンが、ニタリニタリしながら話をする。おれはまるで知らなかったのだが、韓国の国会で大統領が弾劾されるかなんかで乱闘があったとのことで、すごいつかみあいだったとか。そして、ニタリのオバアサンは、その話をして、食堂を出がけに、なんとはなしにというかんじで、「あちらには牛の足なんかないらしい」と言い置くようにして、ドアをあけて出て行った。おれは一瞬「えっ、ウシノアシ、ってナンダ」と思ったのだが、それが「牛歩」のことだとすぐわかって、一人で大笑いしたのだった。

このへんには、こういう、うまいタイミングで、うまいジョーダンをいうひとが多い。おれは、雪の深い長い冬、酒飲んで冗談話をしてきた歴史だろうかと、思ったのだった。雪国の人間は辛抱強いネクラというイメージがあるが、楽天的でほがらかである。

勘定は5000円だった。あとで気がついたのだが、もしかしたら、朝のビール代が入っていないのではないか。ビールは、勝手に自分で冷蔵庫から出して飲むので、そのようにし、ニタリのオバアサンに申告しておいたのだが……ま、いっか。まんぞく、まんぞく。また行くよ〜。

おわり。


地位向上委員会








……雲天編
……万盛庵編















02年4月上旬、ホテル宮又の部屋から坂戸山。このときは、この頂上に40年ぶりで立った。

土手で工事中だった。部屋にはテレビと小さな古びた鏡台。

































当サイトここにもホテル宮又のことが書いてある

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