「定食定義研究」の研究

(04年9月20日版)

ちょっと前だが、どうやら『汁かけめし快食學』をごらんになってらしい、『東京定食屋ブック』についての問い合わせがいくつかあったので、去る8月4日、もくじなどと一緒に紹介のページをつくり掲載した。……クリック地獄

そのときついでにWeb検索していたら、「定食定義研究会」というページがみつかって、コダワリぶりがなかなかおもしろいので、その『東京定食屋ブック』紹介の最下欄からリンクをはっておいた。で、何度か読みかえして見ると、ほんと、おもしろい。というわけで、これをネタに、いろいろ「定食」を考えてみることにした。

定食定義研究会のページでは、このように述べている。        


 日本の昔からの食文化である定食は、最近では食堂、中華料理店、日本そば店と多くの飲食店で味わえるようになりました。しかしながら残念なことに定食とは呼びがたい内容で定食として提供している店が数多く存在しています。そこで定食定義研究会では定食の定義を独自に定めるとともに優良店を認定し、皆様においしいく、正しい定食を味わってもらいたいと思い、日々研究をしております。
また、定食定義研究会では皆様からの優良食堂の情報をお待ちしておりますので、メールでどうぞ。

 定食の定義とは。
定食定義研究会の定める5大定食定義とは
白飯+味噌汁+おかず2品以上。
定食は5種類以上のバリエーションがあること。
内容のわからない定食名は禁止。
「お定食」、「○○定」は禁止。
1000円を超えてはならない。
これらの定義に適合し、当会の厳しい審査によって認定した店を「定食定義研究会優良定食提供食堂」として認めております。
また、定食定義研究会の定める理想的な定食の内容とは
ごはん 白飯でなくてはならない
味噌汁 中華料理店で多いスープは不可
おかず これがなくてはただの御飯セット
漬物 たくあんや浅漬けがよい
小鉢 これがあればなおさらよい
といった内容であることが必要です。

こうして、「優良定食提供食堂の紹介」のリンクがあるのだが、リンク先にはページは見つからない。

ホームページへのリンクをたどると、「日本クラウンタクシー友の会総合ホームページ」にいたる。つまり、そこに「定食定義研究会」が、あるのだ。ま、「定義」であるが、こうあって欲しいという「願望」でもあるのだろう。

タクシードライバーが食事をする食堂というと、ロードサイド型の店になると思うが、当サイトに掲載の「やよい食堂」などそうだし、まだ掲載してないが、中央区勝どきの「月よし」、新宿区西新宿の「千草」などは、10年ほど前にタクシードライバーに人気の店として有名になった。
ああ、看板の「定食」は、どう見ても日本語だし「和」のイメージ…

それはともかく、おれがフト思ったのは、そういえば、「定食」という言葉は、ずいぶんイロイロに使われるようになったなあ、ということだ。かつては、単に「ランチ」とか「セット」あるいは「セットメニュー」とか呼ばれていたものまでが、いまでは「定食」に含まれてしまった。

定食を定義してみたことのないわが身をふりかえると、しかし、当サイトの「押上食堂」では、「やっぱ味噌汁がイノチだね」といっているから、上記の下段の表にある、「中華料理店で多いスープは不可」という考えが、おれには習慣的にあったと思われる。

ちなみに、拙著『大衆食堂の研究』(1995年)では、その点は、まったく意識されてない。というか、めし、味噌汁、お新香は、定食にアタリマエ、ということで検討を加えていないのだ。

食堂メニューの分類では、「定食セット」「定食おかず」「定食めし、しる、お新香」であり、「定食セット」の項で、「セットメニューは、「定」の部分、つまりめし・味噌汁・お新香」……という説明のしかたをしているところを見ると、もうこれは、ダンコ、味噌汁なのだ。

が、じつは、これは実際の風俗とはちがう。現状ともちがうし、歴史的にもちがうと思われる。  

そもそも、実際の風俗からすれば、「定食」は、たしか明治のころ西洋料理の食事、いまいわれるところの「コース料理」というか、ま、パンやスープやオードブルやメインディッシュやデザートといわれるたぐいがセットで提供される食事に対して使われる言葉として始まったと思われる。

つまり、定食と味噌汁は、関係なかった。ハズ、なのだ。そして大正期には、日本料理店の店頭にも「定食」という言葉が見られるようになる。

では、わがニッポンのめしは、「定食」ではなく、なんだったのか。というと、「めし」あるいは「ごはん」で通用していのだ。それには、みそ汁や漬物がつくという、食事の様式があった。

それまでの歴史から推測すれば、「膳」「御膳」が、一般的だったのではないかと思われる。いまでも、「高級」な定食は、よく「ナントカ膳」とか「ナントカ御膳」などの呼び名があるが。大衆食堂でも、そういう呼び方を使っているところがある。

それでは、「高級」な料理屋ではなく、一膳めし屋のような「低級」なところでは、どうだったのか。というモンダイが残るのだなあ。その場合、「めし」といえば、「めしと味噌汁と新香」のことで、それだけで食事だった時代の人たちが少なからずいた。それがあって、おれは「定食セット」の項で、「セットメニューは、「定」の部分、つまりめし・味噌汁・お新香」……という説明のしかたをしたハズだと思う。「定」の部分は、そのようにキマリモノであり、そこにサンマ焼きのおかずがつくと「サンマ定食」となる。という、勝手な解釈をした。

そもそも「定食」なる言葉は、食事の様式ではなく、飲食店での一つのサービスの形態を指す言葉である。それ以外の意味はない。これだけで、たとえば大衆食堂や家庭の食事が説明つくわけではない。一つのサービスの名称なのである。実際に、家庭の、ある食事の様式を指して「定食」という場面は、ほとんどない。

それが外食の場面で広がり、街頭の風景になったのは、戦後の新しいことである。ちゃぶだいやテーブルの普及で「お膳」が後退したことや、小遣いが定額のサラリーマン生活の普及と関係あるにちがいない。いまでも関西や、関東でも古い大衆食堂では、定食メニューがないところがある。たいがい、歴史的に商人や職人が多く、サラリーマンが少なかった地域である。

「定食」という言葉を、実際にそれが使われてない時代や分野に拡大解釈するのは、無理がある。

あるていど、制服のような、実質的で機械的な、お仕着せの食事サービスがよろこばれるようになった背景と密接に関係がある。

               ■■■
今日は、ここまで、またさらに詳しく調べよう。ナゼ「定食」が、味噌汁がなくてはならない、「日本の昔からの食文化」のイメージになったのか、興味あるところだ。

しかし、定食定義研究会の「内容のわからない定食名は禁止」は、いいねえ。とくに、「ナントカ膳」や「ナントカ御膳」になると、内容の想像もつかない気どった名前がすくなくない。「サンマ御膳」を「名月御膳」というがごとし。日本的抒情を否定するつもりはないが、チト、そういうことを発揮するトコロが違うのではないかな。

◆ご参考ブログ版
2005/02/13「「定食」の起源は?」…クリック地獄


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