押上食堂

押上食堂押上食堂看板

東京都墨田区押上1-12-7

(2001年8月版)

こういう食堂が近くにあったらめしをつくらなくなる。だろう。

いいぞいいぞ押上食堂。 まず、この暖簾にワザワザという感じで「大衆」という文字があるのがいい。 それにアーケードの頭上の看板には、クッキリ「東京都指定食堂」とあるのだ。

これがあれば、みんなアンシンして入るだろうという宣伝的効果をねらったのかもしれないが、それにしてもこういう看板を出したら、それなりのことはある、という誇りの表明にはちがいない。

そして、たしかに、もうおれはこんな食堂が近所にあったら、ゼッタイ食事のしたくをしないと思ったほど、おかずがうまくて豊富で安いのだ。とくに、あの味噌汁の味は、しゃくだがワタシャかないません。やっぱ、味噌汁がイノチだね。

どうしても入ってみたいと思っていたこの食堂に、入るチャンスがやってきたその日は、押上駅へ向かう電車のなかから「よおし、今日は押上食堂でくってやるぞ」と燃えていた。そして、ついにくったのだ。

おれが選んだのは、かぼちゃの煮物、さんまの開き、めし、味噌汁。量もすごいぞ。それをギッチリ腹につめこんで、600円。 激しい充足の感動に身をふるわせながら、おれは炎天下を意気揚揚、用のある墨田中学へ向かったのだった。ああ、墨田中学もよい学校だ。近くに向島の見番まである。

そしておれは思った。東京都指定食堂協同組合加盟店の食堂は、共通するいいものをもっている。なんだか大切な「食事と料理の文化」が息づいているようだ、と。

ちょうど一部の食の関係者のあいだでは定評のある雑誌『SNOW』の6月号と7月号に、「大衆食堂の真相」というタイトルで、笹塚の常盤食堂と東中野の東中野食堂を取材して書いたばかりだった。

大衆食堂には近代日本食の伝統がある。それは「フツーにマットウにメシをしっかり食う」 (これは、おれが書いたことを『SNOW』のインターネット版に紹介した編集者の表現だが、うまい要約だ)、そういう歴史と文化なのだ。 と、チト理屈っぽいが、いまでは家庭より大衆食堂に姿を残している近代日本食に注目しようというわけなのである。

地下鉄都営浅草線の押上駅のそば、すぐ見つかるよ。写真のとおり間口二間で、十数名も入ればいっぱいになる。いい雰囲気。

「東京都指定食堂」の看板は、地震などの「災害時に炊き出しをする」食堂を意味するようだが、それより、正しい庶民の食事を忘れつつある今日的タワゴトコジャレ生活の時代では、正しい庶民の食事の歴史文化財としての価値が大きい。悲しい事に、そうなのだ。その価値を、もっと食べ、知り、愛そうではないか。

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