ぶっかけめしの悦楽 遠藤哲夫著(イラスト=東陽片岡) 四谷ラウンド1999年11月 1500円 うん、たしかにクサイ本だ。東陽片岡さんの表紙もクサイが、中身もすごくクサイぞ。だが大衆というのは、生なましくて猥雑でクサイのだ。アジもサンマもサバもクサイし、納豆だって焼酎だってクサイぞ。もちろんおれだってクサイぞ。ま、バターだって、ワインだってクサイのだが。 とにかく、だから、大衆食の本はクサイのが自然なのだ。いろいろ知的な方面からは絶賛をあびて、椎名誠さんが『本の雑誌』で“異端の傑作本”と評したり、『読売新聞』からは“「うまいものは、うまい」という、今どきのグルメが持たないまっとうな「思想」がある”というお言葉をいただいたり、こういう本とは関係なさそうな『日経ビジネス』も“日本の食文化の特徴をとらえた会心作だ”ときたもんだ。北海道新聞、西日本新聞、週刊文春、日刊ゲンダイ、サライからエロ本といわれるレモンクラブなどなどなど、ドえらく話題がはずんだ。 しかし、ちかごろの焼酎クサイ大衆は本を読まないし、本を読む大衆は歯の浮くようなキレイゴトが好きでクサイと逃げるし。アハハハ、「下品だ」と怒ったひともいるな。ブッ、屁一発かけちゃお。 明治以後の高尚趣味の文化のなかで卑下され失われた食文化の歴史を発掘し、その流れにカレーライスと丼物を位置づけた名著である、とでも評価してほしいなあ。 いろいろ話題になったが、そのわりには売れなかったことでも有名。→→→絶賛の紹介書評集 02年の暮、この出版社、四谷ラウンドは倒産た。正義と真実が亡びる時代の宿命か。ああ。これで、おれの本は、正しい人びとのあいだで話題になったわりには本屋では手に入らない幻の名著となった。 だが、2004年7月。大幅に加筆した『汁かけめし快食學』筑摩書房ちくま文庫から発刊。 |