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書きました…小学館Webサイト09年7月から10回

わははめし

(2012年9月26日掲載)

小学館のWEBサイトで、09年7月から10回にわたって、瀬尾幸子さんの料理とレシピに、おれが文章を添える「わははめし」の連載があった。

これは、同じ小学館から翌年6月に『みんなの大衆めし』のタイトルで本になった。しかし、大幅に構成が変わり、おれの文章は全部あらたに書き起こしたため、本には残っていない。

また、WEBサイトの方も『みんなの大衆めし』の発行に合わせて構成を変えたので、ご存知ない方はアクセスしにくい状態になったし、連載の最終回のおれのメインの文章は無くなってしまっている。なので、ここにおれが書いた文章を掲載しておきます。最終回については、おれも丁度パソコンを壊したりしたこともあって、元の原稿も見つからない、いやはや。

1回ごとにテーマを設け、4品の料理を作って撮影する作業は、毎回朝から1日がかりだったけど、楽しかった。おれは瀬尾さんに時々教わりながらやってみるが、たいがいは酒を飲み試食しメモをするというぐあいに進んだ。また料理に文章を添える仕事は、以前からやってみたいと思っていたから、よい機会が得られてありがたかった。それだけに、この文章には愛着もある。

ところで、編集さんが「わははめし」のタイトル下につけたリードだが、

「うまいめしを食べれば誰しも幸せ!「わはは」と笑って気分は最高!そこでこの度「わははめし」仲間を増やすべく、うまいめしのことならNo.1の料理家・瀬尾幸子先生に教えていただくことにしました。教えを請いに訪ねるのは、食いしん坊おやじ代表のエンテツこと遠藤哲夫さんです」。

簡単にいうとこれは「おやじめし」なのだ。おやじでも簡単に作れて、これ一品あれば、三杯めしが食えるというコンセプトだった。

おれはが書いたのは、一回ごとのメインのタイトルとキャッチコピーのようなリードと本文、各料理の作り方のページの最後に「食後のエンテツ、わははの一言」というコメントだ。以下に全文を、そのまま載せます。


タイトル下のリンクをたどるとレシピがあります。なにはともあれ、ありふれたもので凡庸でもいい、力強くめしをつくって食べよう。

10年6月に小学館から発行の『みんなの大衆めし』については、当サイトのこちらをご覧ください。クリック地獄





気取るな、力強くめしを食え!
ありふれたものを美味しく!

第1回 夏に叫ぶスタミナめし
http://bp.shogakukan.co.jp/wahahameshi/01/index.html

夏にスタミナは当然。作ってこその香りや身体のリズムに食欲がかきたてられる。これぞ、知られざるスタミナ源か。

「おやじは、うまいものを食べたがるのに、面倒くさがり」と瀬尾先生はいった。その面倒くさがり、しかも、蒸し暑さで食べる気力さえ失せそうなおやじを、ソノ気にさせてほしいものだとにらみつける。 瀬尾先生は、涼しい顔で続ける。にんにく入りはおいしいし元気がでます。でも自分でつくったら、もっとおいしい。ほら、こうやって、ツルンと皮をむくよろこび、庖丁をいれたときたつ香りの新鮮、トントン切る心地よさ、弱っていた食欲もうずいて活発になるでしょ。 このムラムラくる食欲こそスタミナ源ですよ。 なるほど、にんにくのキツネ色がいい、ただようにおいが、たまらん。鼻がヒクヒク、舌からツバがあふれる。 とんカツの肉をやわらかくするのに、フォークで何度も突く。ブスブスブス、このリズムは「愛と憎しみのボレロ」だって。そんな音楽が、あったかどうか、瀬尾先生の手からフォークをとりあげて、突く。ブスブスブス、なんだか愉快だぞ。では、餃子も包んでみよう。 わはは、やってみれば簡単、すべては味覚を刺激し食欲に通じる。かくて、食べたときのうまさも、格別。しかも、あとくち爽やかが特徴、めしがすすむ。はだしで地面を駆けたときのような、元気と満足と爽快が、肉体に充満する。

レバにら炒め=めしと一緒にかぶりつく。レバの旨味、にんにくの辛味とみそ味がめしにからむ。シャキッとした野菜の食感。ウメェ~、天をあおいで叫びたくなる。 ああ、こりゃ、おやじゴロシだな。

ねぎとんカツ=フン、とんカツなんて、若いときから大好物で、うまい店たくさん知っているゼと内心おもった。口に出さないでよかった。愛と憎しみをこめて突きまくったカツとねぎポンとめしの相性におどろき、カツに惚れ直す。

にんにくステーキ=リクツはいらない、ステーキは王者の風格、力強いおやじの風格だ。にんにくタップリで ガツンと豪快。肉としたたる肉汁のイロケがクイケを奮い立たせる。暑さと仕事で鬱屈した気分もふっとぶね。

スタミナのわりにあっさり餃子=自分で包んだ餃子は、いとしい。いとしい熱々にかぶりつく。ブシュッと熱いジュースが口中をみたす。急いでめしをかっこむ。自分の指先のアヤシイ動きが、特別の旨味をあたえたとしかおもえないうまさ。


第2回 開き直りのあぶらめし
http://bp.shogakukan.co.jp/wahahameshi/02/index.html

とんカツを食べさせてもらえるのは父の日だけ、なんて情けない。これができれば、あぶらのうまみが自由自在だ。

あぶらっこいおかずとめしは、パワフル最強の組み合わせだとおもう。「すっかり油の抜け落ちた“枯れた”オジサマたち」を求める「カレセン」女子が話題になったりしたが、枯れているオジサマは教養があって優しく癒されるなんて、根拠のない妄想だ。そんな女子のために枯れてはいられない。 働くおやじは、あぶらが好きだし必要だ。なんといわれようと、とんカツ、鶏のから揚げ、揚げ物や焼肉もちろん牛丼やあぶらっこい中華などが、三日にあげず食べたくなる。「さっぱりの刺し身が食いて~」といったりするが、揚げ物を食べないと生きている気がしない。 「とにかくあぶらだ!」と叫んだら、いつもギトギトの揚げ物やチャーハンばかりじゃ、やはりみっともないおやじですよと瀬尾先生が教えてくれた。 「あぶらめし」とは名前からしてガツンだ。かっこんだら、うまくて目からウロコがポロリ。なるほど、こういうテがあるのか。これだったら、カレセン女子も、よろこぶにちがいない。 わはは、あぶらめし食いながら女子にもてちゃうのだ。 それに、実際のところ、あぶらっこさを避けながらあぶらのうまみとめしの相性を楽しめる作り方がうれしい。そんなふうに、あぶらや女子との付き合いかたに気をつかいながら、やがておやじは枯れていくのでしょうか。 枯れないうちに、たらふく食べたいあぶらめし。

台湾風豚肉ご飯=豚バラの角煮系は大好物だけど「新しい天体」に出会ったような感動。コクがあるのにスッキリな豚バラのうまみが、たまらん。めしにかけてサクサク食べられる。食べすぎにご用心!

牛肉かけご飯=ようするに、ちまたの店の「カルビ丼」のようなものだが、似て非なるは、薬味がきいたうまさ。これは、まさに自作ならではの醍醐味。そうなのだ、肉料理は、薬味でちがいがでると知った。

オリーブオイル目玉焼きめし=アンチョビを調味料のごとく使いこなしているのがおやじには新鮮。オリーブオイルテイストのライスサラダな感覚で、ヘルシー娘にほめられそう。パーティにもつかって自慢しよう。瀬尾先生のあぶらめしは、おもしろい。

カリカリ鶏ご飯=焼き色に食欲暴発。鶏のあぶらをもって鶏を制すココロだね。うまみタップリの焼き汁とめしが渾然一体と織りなす、うまうまなめし。自分好みの薬味が効果的。陶然としつつ、トウゼン、ビールも欲しくなる。


第3回 汁ぶっかけやりたい煮物・焼き物
http://bp.shogakukan.co.jp/wahahameshi/03/index.html

「もったいない」からというより、「うまい」から、汁をめしにかけるための煮物や焼き物もアリなのだ。

ねこまんまやみそ汁ぶっかけめしが好物のおれは、煮物や焼き物の汁をめしにかけてくうのが好きだ。食堂でも、さばみそ煮や炒め物などの汁をめしにかけているおやじがいる。その姿が、いかにもうれしそうで、おもわず握手を求めたくなる。 ドバッとかけなくても、汁をたっぷり含ませたおかずをめしにのせて食べるのもよい。まず白めしのままおかずをつついて一杯目、のせて二杯目、かけて三杯目とやれば、わははな気分。 リクツをいうまでもなく、煮汁などは、めしと相性のよいうまみの宝庫だから、これを捨てるテはない。おかずを、あらかじめ炊き込めば炊き込みごはん、混ぜれば混ぜごはん、ってわけだ。納豆や卵だけじゃなく、ひじきの煮物や切り干し大根の煮物、あるいは鍋物の残りを汁ごとめしにかけると、うまくてめしがとまらない。 ならば、最初から汁をめしにかけるつもりの煮物などはアリでしょうか、瀬尾先生。 といったら、もちろんですよ、満足に料理もできないのに、リクツだけは一人前ね。 いやあ、男子のめしはウンチクがおかずなもので、とはいえこれぐらいは作れますよ。と、切ったなすをいきなり炒めようとしたら、ダメダメ、下ゆでをしてからと指導がはいった。リクツだけじゃ、いかん。

金目だいの煮付け=煮物なんか、鍋を火にかけほっておけばよいとおもっていたら大まちがい。煮汁をすくってはかける。うまいめしくいたさに面倒くさがらずにやる。かわいがって育てるようにね。必ず、むくわれる。料理は正直でいいなあ。

鶏肉の照り焼き=作っている最中のにおいや色。舌にツバがたまるし、食い気がむらむら。それを、まだまだ、がまんがまん、なだめながら焼く。最後に調味料を加えた瞬間の音と香ばしいにおいに食欲暴発。

なすと豚肉のみそ炒め=なんとまあ、ジューシーななすにみそ味がからんで、爽快ですらある。油を吸ってクタクタになるほど炒めたなすをうまいとおもっていたおれって、なんだったのだろう。クタクタ疲れたおやじにすぎなかったのか。

肉きんぴら=わかったぞ、あぶらを含んだ牛肉のうまみをひきだす。汁にコクが出て、とろみと照りのある汁がえられる。めしにかけたとき、すごくうまいのだ。そういうことでしょ、瀬尾先生。わかりましたぞ。


第4回 ソースで深まるめしの快楽。
http://bp.shogakukan.co.jp/wahahameshi/04/index.html

子どものころからウスターソースとしょうゆだけで間に合ってきた俺は、おどろくばかり。しかも、なんてまあジャンクなおかず。ガツンとパンチあんどパンクな味わい。病みつきになりそう。

あじフライにはウスターソースがよいかしょうゆがよいか、男同士が真剣になって話していることを、女は聞かないふりして耳をそばだて、あとで「おやじって、どうでもいいことにこだわるのが好きねえ」なんて女同士のどうでもよい話のネタにする。 そのとき、「しょうがないおやじ」と軽蔑されるか、「かわいい」という好意的な評価になるかのちがいがあるはずだ。それは、話の中身というより、おやじの日常、わかりやすくいえば「紳士度」による。ま、たいがいの女は、そんなもんである。 としても、話の中身によっては情報価値が高く、女たちにとっても「どうでもいいこと」ですまされないものもある。その一つが、ソースだ。ウスターソースとしょうゆがあればでは、もはや情報戦線で敗残おやじになるしかない。 ソースの種類は増え、料理との相性も多様になる一方だ。あじフライにあうソースが何種類もあって、そのうちワインのソムリエなみにソースのソムリエが必要となり権威になるとおもわれる。 ってほどではないが、増殖するソースと料理との関係は人間の相性のように複雑化しているのはまちがいなく、少しでも詳しくなっておくことは、これからの国際情勢と男女間情勢において、大いにプラスになるだろう。 これらのソースのたいがいは、そのままめしにぶっかけて、めしが何杯も食べられるクセモノでもある。こころしてかかってほしい。

ソースで食べる野菜天ぷら=定食屋で、えびの正体はこゆび以下のうどん粉の造形物のようなえび天を食べるときは、自虐的な気分でソースをたっぷりかけるとうまいのですが、これは意外や果物のような味覚で、いくらでも食えちゃう。

ジャンキーフライ=おお、まさにガツンな大衆食堂の味覚。「ジャンキーグルメグランプリ」なんてのがあったら、トップに輝くにちがいない。めしはどんぶりに盛って、わっしわっし食べたい。

うまいお好み焼き=ソースを味わうのか、お好み焼きを食うのか、お好み焼きはおかずなのか、ソースでめしが進むのか、渾沌としたなかにあったかキャベツのうまさが盛り上がり、とにかくめしが食えちゃうのだった。

焼きそばの抜き=よーするに、野菜炒めでございますが、焼きそばソースを使うってのがニクイ。めしとかきまぜながら食えば、そうです、そばめしのそば抜き、か。ビール飲みながらでも、ガンガンいける。


第5回 香りよし歯ざわりよしパリッな皮。
http://bp.shogakukan.co.jp/wahahameshi/05/index.html

「グータラ」「ヨレヨレ」が似合うおやじでも、パリッと決めたい皮の味。香ばしさがたまんない。


エンテツ…瀬尾先生は、「パリッ」「サクッ」「カリッ」が好きですね。前にも、カリカリ鶏ごはんってのがあって、鶏皮パリッでしたよ。ねぎとんカツのとんカツの衣も、餃子の皮もカリッパリッでしたよ。 瀬尾先生…そうかしら、そうね。でも、おやじのみなさんも、パリッとした皮、好きでしょ。 エンテツ…はあ、でも、シットリってのもよいとおもうのですが、男と女は。 瀬尾先生…なにを考えているんですか、きのうの夜の女のことはパリッと忘れて、料理に集中しなさい。皮の中はシットリですよ、だけど外はパリッと仕上げるのです。 エンテツ…はあ、外もシットリじゃいけませんか。 瀬尾先生…シットリというよりウジウジごねますね、ごねても酒はでませんよ。皮はね、パリッと仕上げることで香ばしさがでます、見た目もおいしそうで食欲も刺激される。いいから、やってごらんなさい。 エンテツ…はあ、そういえば、焼いたさけの切り身だけど、身だけで、まずめしを2杯ぐらい食べ、残しておいた皮をパリッと焼きなおして、もう1杯めしが食えます。 瀬尾先生…わかっているじゃないですか。まさに皮一枚の虚実皮膜のあいだの美味です。うすい皮も料理しだい、おやじの頭もお手入れしだい。おわかり? エンテツ…はあ、でも、これ、ゼッタイ、酒のつまみにいいとおもうんだけどなあ。

さけのお湯茶漬け=さけの皮さえあればよい越後人。ってぐらいワタクシ新潟県人はさけの皮をパリッと焼いたやつを食べてきましたが、新潟県人ならずとも、おやじのこころと食欲をくすぐる一品ですな。

鯛のにんにくオリーブオイル焼き=皮の外はパリッパリ、にんにくも効いて、香ばしさ満々のうちに、身はぼっくりほこほこ。「うまい」というのも惜しく、めしをかっこんだ。これは、かなり料理の腕自慢になりますぜ。

鶏の炭火焼き=これでめし食えってのか、ビール! 見た瞬間、おもわずいってしまった。見た目も味も「おやじの風格」ですぞ。休日には、文庫本とビールを横に、のんびり焼く。いいもんでしょう。

はたはたの一夜干しの素揚げ=まったく、まったく、ちょっと干したぐらいで、なんでこんなにうまくなっちゃうの。ですね。最初の2,3匹は、頭からむしゃむしゃ食べて、それからめしに取りかかって大満足。



第6回 スコブル愛しい貧乏めし
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「貧乏めし」といえば男ばかりとおもっていた。うん、しかし、やはり男と女とでは微妙にちがうね。

いまでも貧乏だが、若いころの貧乏自慢はたのしいねえ。カネがないときに、どうやってしのいでいたか。銭湯に3週間行かなかった、安いタマネギ3個で三日すごした、そんなことを自慢げに語り合う。 と、その貧乏自慢の面々をおもい浮かべてみれば、男ばかりで女がいない。女の貧乏自慢は聞いた記憶がないし、貧乏というと男のイメージである。なぜか? 一つ、ホームレスに女の姿が少ないから、女においては、貧乏はきわめて特殊である。一つ、男は女には無理してかっこつけておごる、女はカネがなくても食うに困ることはない、イザとなれば男のおごりでうまいものを食べているにちがいない。そんな「偏見」を持っていたようだ。 「貧乏めし」といえば、断固、男である。女がやったことあるのか。テーマが「貧乏めし」と知って、そうおもった。えっ、瀬尾先生、やったことがあるの。そうか、女にもあるのか。まさか、男にもてなかったとか……いやいや冗談ですよ。 料理をしたことがないおやじでも、思い出の一品ぐらいはあるのではないだろうか。瀬尾先生の手にかかれば、若いときよりちっとはリッチな気がする、青春の思い出と一緒にかっこむ貧乏めし、ただただうまい。

みそラーメンおじや=似たものをよくやるが、麺は「3cm角くらいに砕く」のではなく、半分に割るだけ。いかにも大ざっぱな「男の貧乏めし」でありますね。しかも、器にもらず、鍋からそのまま食べる。これが、うめえ。

鴨つけそば=えっ、これがめしのおかずなの? とおもいながら、汁をめしにかける。なんと、濃厚なだしの味は、貧乏くささのみじんもない、高級感な鴨汁ぶっかけめし。麺? 好きなようにすればよろしい。

もやしのゆかり炒め=もやしと豚こまで堂々と肉野菜炒めをなのれる。そこに「ゆかり」を効かすところが、さすが瀬尾先生だ。めしにのっけてかき混ぜながら、むさぼりくえば、いまの貧乏も気にならん。

魚肉ソーセージと紅しょうがのかき揚げ=なんとまあ、この紅しょうがの色が、女の気づかいというかんじだけど、うれし涙が出そうなほど安っぽいうまさで、むかしの一円駄菓子(知らんか)の味を思い出した。食え! 貧乏魂の味。


第7回 魚でギョギョギョ大めしぐい
http://bp.shogakukan.co.jp/wahahameshi/07/index.html

日本列島の常識、魚でめし。「魚ばなれ」がなんじゃい、魚とめしの力をとりもどすのはおやじだよ。

魚をおかずにめしを食べる。日本列島の北から南まで、古くからの、そして子どものときからのフツウだろう。そこに女子がいればおやじはほっておかないように、そこに魚があるからめしのおかずにする。 問題は、おやじらしい、魚の食べ方ではないか。しかし、「おやじ」というと、ギラギラ脂ぎっていて、臭い靴下をはいて、とにかく臭くて、さぼることだけを考えていて、女子にはマメである、といったイメージがわりと定番のようだ。そういう型にはまった見方を、あえて訂正する必要はない。その通りに、いつも脂っこいものを食べ、だらしなく不潔にし、てきとうにさぼりまくって昼酒などを飲み、手当たりしだいに女子に声をかけて毎日をすごすことができたら、どんなにうれしいことか。 しかし、そうはいかないのが、こんにちのご時勢だ。無理してデキル男のふりをするために、いつもこざっぱりと決め、電子機器を使いこなし、鋭く紳士的にふるまわなくてはならないのである。なんと窮屈なことだろう。 ちかごろは、魚もおやじのように臭いからイヤ、という女子もいるらしい。魚とおやじを臭いもの代表にするつもりか。臭いおやじのよさを知らないように、魚のよさを知らないのだ。恐れることはない、おやじの魚料理で、そういうわからん人をギョッといわせてやろう。いや、ま、そこまで考えなくても、魚でめしをたらふく食べるのは、このうえないよろこびだ。

ぶり大根=ぶり大根は冬のスタンダード、ぐらいは知っている。ぶりと大根を一緒に鍋にほうりこんで煮ればよいのかとおもったら、瀬尾先生に下ごしらえを指導された。簡単なものほどていねいにってことか。

さんまのみそ焼き=あまりほめたくないが、たまーに、瀬尾先生は「天才」じゃないかとおもうことがある。さんまをみそ味で焼く、単純なヒラメキ、単純な料理、コロンブスの卵的うまさ。めし3杯で止まりません。

さけの粕汁=さけと酒粕というと東から北の日本のイメージだが、とにかく、これを食べるときは、さけと酒粕のあるところに暮らしていてよかったと、しみじみおもう。瀬尾先生流は酒粕ひかえめで、あきがこなくて何杯でもいける。

しらす丼=熱湯をかけたしらすで、くたびれている肉体にもやさしく、食べるほどもう一杯食べたくなる、慈愛にあふれためし。財布は寒く、誰にもやさしくしてもらえないときでも、わははだよ。


第8回 たっぷり食べたい脇役おかず
http://bp.shogakukan.co.jp/wahahameshi/08/index.html

おやじ心がつまっている脇役おかずをたらふく食いたかった。気分も快快、めしがすすむ。

どんな世界にも主役と脇役がいる。そんなにまちがったことはしていなくても、気がつけば主役と脇役にわかれている。 料理の世界では、主役になれるのは、肉や魚である。それは、うやうやしく大きめの器におさまる。一方、無造作に小皿や小鉢にしか盛られない、脇役のおかずがたくさんある。ああ、なんとなく哀愁の脇役たちである。 しかし、おかずを自由に選んでとれる大衆食堂では、とくにハッキリするのだが、魚や肉のメインを選んでも、やはりこれがないとめしにならないなあという、キラリと輝く脇役があるし必要だ。よく考えると、それを食べたくて、その大衆食堂へ行っているということがある。晩酌もするとなれば、ますます、これが欠かせない。そして、ああ、もっとたくさん、小皿や小鉢ではなく、大きな器でタップリ食べたいとおもうことがある。哀愁の脇役だって主役になれるのだ、そのチャンスをあたえてほしい、型にはめないでほしい。切ない脇役おやじの願いである。 そんな気持をわかってくれた瀬尾先生は、救世主か女神様か。そうなのだ、どんぶり一杯のおからやひじき煮などをかっこみながら、めしをわっしわっし食べれば、大満足で、哀愁なんかぶっとぶのだ。

食堂のポテトサラダ=大衆食堂や大衆酒場、惣菜店の定番中の定番であるポテサラを思う存分食べる幸福感で、食欲は増進。じゃがいものほっくほくがうれしい。デンプンは、なぜこんなにうまいのか、宇宙の謎。

おから煮=東陽片岡さんの濃い昭和30年代的漫画には、どんぶり一杯のおからを食う場面がよく登場する。おれが子どものころは、大きな器に山盛り一杯が、ちゃぶ台の真ん中にデーンとおかれたものだ。その感動が、いまここに。

ひじきの煮もの=ただよう風土の味わい。ひじき煮はソウルな味覚の代表格だとおもう。ゴマ油のコクが効果的でうまいのなんの。たらふく食べ、ああ、ここにおやじやおふくろの「魂」があるのだという気分。

厚揚げと煮干しの煮もの=そうそう、厚揚げ煮といえば、煮干がまんまある、これなんだよ。いやあ、おやじにとっては、たまんないよろこび。めしがどんどん入る、おやじ心の煮物。瀬尾先生、もしかして、おやじ?


第9回 サクッと究める俺様フライ
http://bp.shogakukan.co.jp/wahahameshi/09/index.html

好きな揚げものを自由自在に作れるようになったら、男一匹天下無敵だ。ってぐらい自信がつく。

揚げものは大衆食堂の人気メニューだ。「フライ盛り合せ」や「ミックスフライ」がたいがいある。あじといか、えびなら豪華、コロッケがつくこともある。冬はかき、北海道へ行けばほたて。チキンカツやメンチカツ。ハムカツも人気が回復。串カツなんざ、たのしいねえ。揚げものは、おやじの生きがいか。 が、どんなに好きでも、自分で揚げるとなると、尻込みしたくなるのではあるまいか。揚げものはめんどうだからこそ外で食べる、外のほうが断然うまい!と強弁したくなる。すると、瀬尾先生は、しみじみ、かきくどくようにいうだろう。そうじゃないの、どんなにおいしくても、お店の味はお店の味なのよ。あじフライのあじを自分で開くところからやってごらんなさい、メンチカツのひき肉をこねるところからやってごらんなさい、自分で作るから得られるおいしさってのがあるの、そこのところをわかってほしいんだなあ。 そうだ、そうなのだ、大好きだからこそ自分で作る。俺のフライ、俺のうまいめしをたらふく食べたいという熱意で台所に立つ。パン粉をステンレスのざるにあけ、手のひらでおしつける。俺好みのパン粉ができる。俺好みだけではいけない、ここがというツボがある。そこさえ押さえれば、おどろいた、俺ってこんなにうまく揚げられるんだ。サクッ、カリッ。フライではなくヒットを放った気分で、俺様フライをかじり、めしをかっこむ。 最終回 いまこそ缶詰うまおかず スパムメールはいやだけど、スパムのランチョンミートって、マッチョかっこいいねえ。削り節としょうがの効果で、お好み焼き風の味わい。これだけをガンガン食べ、めしを忘れそう。

メンチカツ=いやあ、手のしわや毛穴がスッキリきれいになるぐらい、にゅるにゅる練り混ぜました。熱々をサクッとやった瞬間、ジュッとうまい汁が口のなかに広がる。あひあひうめうめと、すかさずめしをかっこんだ。

あじフライ=あじフライは子どものころから食べ続けてなおかつあきない。さらに、おろし方まで覚えて大感激。開きの三角形あじフライもいいが、この三枚におろしたやつは作りやすく食べやすく、いいねえ。

えびフライ=えびフライだからこそ「安く」を強調したい。自分で作るから安くてうまい。口のなかで踊るプリップリのえびを、思う存分食うしあわせ。ああ、このプリップリを、なんにたとえよう。

ポテトフライ=瀬尾先生が子どものころ、肉屋で一個5円だったそうだ。うむ、これでめし三杯食べられるというより、これをめし三杯分食べたいうまさ。食べだしたらとまらない。ウグッ、のどにつかえ、ビ、ビール!


第10回(料理と「食後のエンテツ、わははの一言」だけ残っていて、タイトルも不明なのだが、料理からすると、缶詰を使っためしだろう)

さば缶とねぎの炒めもの=さば水煮缶は、そのままめしにぶっかけて、しょうゆをたらしながら食べていたが、いかにも芸が足りないと気づいた。この生臭い缶詰を上手に料理すれば、料理の腕があがった気分。上機嫌でめしがすすむぜ。

スパムと豆腐のチャンプルー=スパムメールはいやだけど、スパムのランチョンミートって、マッチョかっこいいねえ。削り節としょうがの効果で、お好み焼き風の味わい。これだけをガンガン食べ、めしを忘れそう。

味つけいかの炊き込み飯=いやあ、驚いた、なんべんでも「驚いた」と書きたい。味付けいかとしょうがの味がからんだ、米の味のよいこと。こんなに手軽にできる、うまい炊き込み。知らないは、おやじ人生の損だね。

いわし缶ときのこの炒め煮=無邪気に「うまい!」ってほどじゃないが、何杯でもめしがくえてしまうおかずがある。これは、その見本のようなものだ。最後の汁の一滴までめしにかけて食べたくなる。やっぱりうまいのか。



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