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「いも煮」といえば、山形が有名のようだが、ここも盛んだ。
四国は愛媛県・西条市「藤田家族」訪問。
加茂川の河川敷で「いもたき」。



(08年9月16日掲載)

北九州で仕事を終えたのち、9月8日の朝、小倉駅を発った。まっすぐは帰らず、新幹線で岡山、瀬戸大橋線に乗り継いで予讃線の伊予西条駅へ。

西条には、東京で会社員をしていた藤田敏さんがいる。いま40歳すぎたばかりの彼とは、東京で2、3回酒を飲む機会があった。その後ご無沙汰しているうちに、約3年前、故郷の西条にもどり、百姓になっていた。

藤田さんのご実家は百姓ではなく、サラリーマンだから、完全なる脱サラ百姓だ。「藤田家族」という農園経営は3年をすぎたのだが、そのレポートはブログにするとして、ここでは「クウノム」の話だ。

8日の朝、小倉駅で、どこへ行こうか迷っていたとき、調べると、新幹線と特急を乗り継いで、4時間ぐらいで西条へ行けることがわかった。なかなか行けない遠いところというイメージがあったけど、そうでもない。このさい行ってしまおうとおもい、藤田さんに電話をした。その日は晴れていて、百姓は野良仕事だろうけど、朝の電話だったこともあってか、藤田さんは家におられ、おれのトツゼンの押しかけ訪問を、受けてくださることになった。

着いて畑を案内してもらった。そのあと、ひとまず藤田さんは仕事、おれは市内見物などして、18時に駅前で待ち合わせた。藤田さんは、新規就農支援などで交流の深い、市役所の若い仲間を誘い、加茂川原の「いもたき」へ案内してくれた。

「いもたき」つまり「煮る」を「炊く」という西の地方のことだから、いも煮のことだ。藤田家族の畑の周辺でも、勢いのよいハスの葉が密集した畑があった。地元のサトイモの収穫の時期にあわせ、8月下旬あたりから9月、河川敷での「いもたき」が盛んになるらしい。おれは、ちょうどよいところへ行ったというわけだ。




いもたきの会場は何か所かあるらしいが、ここは石鎚山を源流とし市の中心部を貫く清流、加茂川の河川敷という場所のよさにくわえ、人数分を払ってイモや鶏肉や野菜に、だし汁の入った鍋材料セット一式を受け取れば、あとは酒も材料も持ち込みおかましなしというのがよいらしい。

藤田さんの仲間が、ビールやら材料やらをクーラーボックスに用意してきてくださった。見ると、ほかの人たちも、たいがいクーラーボックスも持っている。



ゴザの上にガスコンロを囲んで席を占める。さっそく、まずは乾杯し、鍋に材料をほおりこむ。持ち込みのハクサイなどは、手でちぎって入れる。飲みながら、たきあがったところを食べる。イモは、まだ小芋の大きさだが、やわらかくて甘みもあって、うまい。



明るかった空も暮れるころには、月曜日というのに、広く敷かれたゴザ席の6割方はうまっていた。みな地元のひとたちのようで、お互いに挨拶をかわしている。もう虫も蚊もなく、外でも落ち着いて楽しめる。

たっぷり食べて飲んで、おれは途中で腹いっぱいで食べられなくなるほどだった。いいねえ、うまい、安い、こんな楽しみがあるなんて。こういう生活の風景に接すると、「豊かだなあ」とおもう。これ以上、なにも望むことなんか、ないじゃないかとおもう。でも、そうはいかない世間でもあって、だからこそ、このつかの間が豊かであるともいえる。



入り口に「いもたき20周年」なんていう石碑があった。地元自治会関係者による「西条いもたき実行委員会」というのが、この場所の主催者らしい。もとは自然発生的に始まったものが、しだいに人気を集めたのだろうか。土地の産物に根付いた、こういうイベントは、いいものだし、無理がないから、長続きするのだな。








鍋の最後には、うどんのほかに、乾麺の中華めんをゆでずに、そのまま入れる。これが、鍋のスープにあうんだなあ。麺は細く、たき加減にもよるだろうがシコシコぐらいに、スープをからげてズズズズッとすする。うまい! 思い出して、また食べたくなる。それにしても、中華の乾麺とは、めずらしい。

ほんと、うまかった。大満足。藤田さん、藤田さんのお仲間さん、どうもありがとう。






四国というと「水不足」というイメージがあるけど、ここ西条は、ちがう。「水の都」といってよいぐらい、しかも飲める良質の地下水が、ふんだんに湧いている。地元では「うちぬき」とよばれる自噴の井戸だが、なんでも、飲用できる「うちぬき」が2000ぐらいあるといわれている。全国の「きき水」の大会でも、2年連続で優勝しているほど「うまい水」なのだ。まったくクセがない、味覚的にも透明感の高い、すっきりした水だ。

この画像は湧水池だが、むこうに水源の山である、西日本の最高峰石鎚山塊が見える。石鎚山の頂上は西条市になり、冬は雪が積もり、スキー場もある。その雪もとけて、地下水流になるのだろう。

湧き出た水が流れをつくる岸にも「うちぬき」があって、豊富な水が自噴しドクドク流れている。観音水という名前がついている。バイクに乗って勤務中らしいひと、あるいは自転車で来たひとなど、いろいろなひとたちが、ペットボトルなどに水を汲んでいる姿が絶えない。そんな「うちぬき」が、あちこちの街角にある。

あまりに、よい水が身近すぎるのか、チトもったいなあとおもうぐらい、ほったらかしというか、とくにウリがあるわけじゃない。井戸があって水が湧き流れている以外、ほとんど、なにもない。それが本来の姿なのかもしれないが、都会のコセコセした欲にまみれたココロは、なんだかもったいない、もっと何かに生かしようがあるだろう、とおもうのだった。

そんな西条のおもしろさについては、またべつに紹介するとしよう。海と山と清流がもたらす環境に恵まれ、どことなく、のんびり、ゆったりな西条の街に、なかなかパンクな食堂風景もありました。

■藤田家族のブログ「38歳からの百姓志願〜実践編。 霊峰・石鎚を仰ぎ、瀬戸内の陽光を望む愛媛県西条市、「有機菜園 藤田家族」無農薬・無化学肥料の野菜と暮らし」…クリック地獄


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