ザ大衆食トップブログ版日記





2008年4月21日閉店
ブログ版2008/04/21「きょう上野「聚楽台」閉店。テレビ朝日『スーパーJチャンネル』のニュース番組に出演」を、ご覧ください。…クリック地獄



上野駅前
上野百貨店の聚楽台と西郷丼


(05年4月25日版)

上野駅前再開発計画が進行し、上野百貨店一階の「のれん会」は、たしか半年以上前に退去済みでシャッターが下りたまま。しかし2階の聚楽台は普段どおりの営業でにぎわっていた。

目下建替え対象になっているのは、上野の山を背負った上野百貨店と、右隣1階に松竹映画館3階に大きな碁会所がある上野松竹デパートだ。上野松竹デパートの右隣にあったビルは、すでに建替えが済んでいる。上野百貨店も「時間の問題」とみられているようだが、地下のライオンも3階のビアステーションも営業している。(この外観の写真3点は05年3月24日撮影)




とにかく、どうなるかわからない、4月24日上野へ出るついでがあったので、「上野で一番おいしいビール 大型タンク設置店」「工場直送生ビール 中生ビール480円」の貼り紙が見える「聚楽台」に入った。

まだ上越新幹線が上野を始発駅にしていたころだと思う。故郷の新潟から上京の知人と、列車の時間まで飲んだ。この聚楽台や、客席から筋向いのアメ横入口に見える本社?の「聚楽」を利用するときは、いつも故郷のひとを送るときだった。新幹線という新潟と東京を短時間で結ぶ便利な列車ができても、故郷にあるものと故郷を離れて異郷にあるものは、たまさかの一緒のときを惜しんで、列車の出発ギリギリまで、そのように過ごすのだった。そして、客席の周囲は同じような客で、さまざまな「故郷の言葉」が飛び交っていた。

そのことは、1995年の拙著『大衆食堂の研究』にも書いた。「思えば…編*田舎者の道」の「*三、食堂でなければありえない*」の項である。

  そういう意味では、聚楽などは田舎者の大集会所みたいなもので、その状況は、数年前に上野の聚楽にはいったときも同じだったのでおどろいた。御三家の中で、昭和三〇年代にして一九六〇年代の面影をとどめて残っているのは、上野の聚楽だけになってしまったのだ。
  やっぱりあの、建物は古ぼけているし、レトロというには品はないし、でかいだけの大食堂で、相手がこれから新幹線に乗るというところがちょっと風情に欠けて気にいらないのだが、田舎に帰る列車に乗る前の親戚や友を囲んで一杯やるというのは、なかなかいいものなのだ。周りにも同じようなグループがいて、田舎者は旅の通人であり、なおかつ健在であるな、と思ったりして。ともかく、生きる味わいがあっていい。ちまちました都会の日常をぶちやぶるような、希有なゆとりと壮大な交情を感じるのである。

かつて聚楽は、おれにとっては日常の「大衆食堂」ではなく、デパートの食堂のように、特別な晴れがましいところだった。だから、『大衆食堂の研究』でも、1924年(大正13)に須田町食堂で始まった聚楽を他の大衆食堂と一緒にすることなく、あくまでも特別な扱いだった。どちらかといえば、いまでこそ「市民生活の向上」で大衆食堂的な存在であるが、企業経営的なファミレスの「はしり」のような存在だった。

午後3時すぎ上野に着いて「聚楽台」に入ってみると、10数年前とおなじ雰囲気だった。あれから何度か入ったが、店のつくりは、ほとんど変っていないようだ。(写真右、細長い店内の写真で見る奥側ほぼ半分は広い座敷。こういうゆとりのあるつくりは、セチガライ都心では稀有なものになった)

そして、日曜日のこともあるだろう、相撲の桟敷席のような広い座敷では、くつろいだグループが、交情の宴たけなわだった。家族、友人、老若男女……、窓際のテーブル席では一人黙々とビールを飲み食事をする老人もいる。ゆったりした空間、のんびりした人びと。この、他人でありながら「血のつながり」をかんじさせる「場のあたたかさ」は、なにだろうか。上野独特のものがあるような気がする。

正確にいえば、再開発リニューアルされた上野駅構内の飲食店にはない、「血のつながり」をかんじさせる「場のあたたかさ」が、道路一本へだてただけのここにはあるのだ。

「ウエイトレス」と呼ぶには失礼にあたりそうな店員、熟練のオバサンが水のコップを置いて注文をとる。まさに下町の路地から前掛け姿であらわれたような自然体。

ま、とにかく、中生と枝豆、そして、これがネライの「西郷丼」を注文した。オバサンが「安心おし、いまおいしいのもってきてあげるから、まかせておきなさい」というかんじで目で笑いうなずいて去っていく。そうだ、この店ではマニュアルに従って「大声で、キビキビ」の接客はない。ホント、あの「大声で、キビキビ」は、飲食する客のことを考えていない、自分たちの経営価値観の押し付けだな。

上野公園のシンボルである銅像「西郷どん」にかけたのだろうか、「西郷丼」880円。めしがタップリ入った丼は、上にサツマイモの天ぷら、豚の角煮、サツマアゲ、鳥そぼろといった、鹿児島県薩摩に関係すると思われるモノと、ホウレンソウに温泉玉子がのっている。料理的味覚的には相互の関係は、まったくといってよいほどない。だから、丼の上のおかずはツマミに生ビールを飲む。すごい量だ。中生、おかわり!

で、最後に鳥そぼろと温泉玉子とホウレンソウとめしをガシャガシャとかき混ぜて食べた。腹いっぱい、苦しいよう〜。でした。ほかにも創業80周年を記念して昭和初期のメニューを復元したとかの料理があって、いくつか気になるものがあるから、また食べに行きたい。


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