六日町 大阪屋 高千代酒造
満足泥酔紀行 第5回
泥酔状態における高千代酒造五月まつり(3)
(6月8日記) 酒宴が始まると、まずはとにかく純米吟醸の「巻機」を飲みに飲んだ。ソルマックを飲んで臨んだので、やはり快適に飲める。つまり酒は、体調がよくないと、うまく飲めるものではないのだ。とくにトシとるとね。 そして、ヒジョーに心地よい酔いのなかで、大吟醸「秘酒 高千代」が登場した。「大吟醸」などという恐れ多い酒は、ひたすらありがたい酒で、ふだん買って飲むことはしない。なにしろ原料米の外側から半分ぐらいを削って使う、ばかげているほどゼイタクな、そして清酒全生産量の、たしか1割に満たない酒である。 とにかく、ひたすらありがたいものなのである。だから、本当は、この酒は、最初に茶碗に一杯ていど、ありがたくありがたく頂戴する飲み方が正しいのであって、ガブガブ飲むものではない。それをガブガブ飲んだ。そして豪勢な気分にひたるのであった。おりしも覚張さんの蕎麦が打ちあがって、それが、大吟醸と相性がよくて、よく食べられたし、またよく飲めた。 じつは、吟醸もそうだが、大吟醸という酒は、大いに食べながら飲むには難しい酒なのだ、とおれは思っている。相性のよい肴を少量に、適量飲むのがうまい飲み方のように思う。しかし、こういう「まつり」であるから、そんなことはどうでもよい、とにかく豪勢な気分で豪勢に飲む飲む飲む。 ちょうど平成14年酒の全国新酒鑑評会が行われていた最中だ。まだこの場では結果はわからず、帰ってきて10日ぐらい後に発表があって、高千代酒造は金賞!だった。全国新酒鑑評会については、いろいろ「論」があるようだが、高千代酒造のように蔵人が10人もいない小さな蔵元にとっては、よい励みになるに違いない。 高千代酒造が、どう酒造りに取り組んでいるか、2年続けて杜氏や蔵人のみなさんの話を聞き、詳しく知るようになったが、そのことは書く必要ないだろう。そんなことは知らなくても、飲んでみればワカル酒だ、じつに素朴にわかりやすい酒なのだ。こういううまい酒に美辞麗句や能書きはいらない。それに、なにより、とにかく、みなさん人柄がよい。それで十分である。この写真のように敷地内の一角に、酒の仕込みに使う水が湧いている。この水も、うまい。 さて、問題は、こういうことなのである。まつりは1時半ごろから始まり、酒宴は2時ごろに乾杯そして5時ごろまで続いた。その間のみに飲んで、もうどれぐらい飲んだか、その酒宴のあとだ。おれとクボシュンさんは、クボシュンさんの奥さんにクルマで迎えに来てもらい、そしてクボシュンさんの家で、また飲んだのである。ああ、酔いつぶれるまで、時間のオワリまで、これでもうヨイということがないのだ。 こんどは高千代の本醸造だ。そうである、われらが普通酒なのである。ま、本醸造は、正確には普通酒と区別されることが多い、フツウの上クラスだが。大吟醸ガブ飲みの後なら普通酒といっていい。 おれとクボシュンさんは、いつも本醸造より安い普通酒の高千代の辛口を飲んでいるし、おれがふだん買うのも辛口である。おれたちは、さんざん豪勢に飲んだあげく「やっぱ、これを飲まねばの」と普通酒をガブガブやるのであった。 普通酒のうまい蔵元こそ、よい蔵元なのである。そして清酒の全生産量の8割を占めるといわれる、普通酒がよくなってこそ、日本酒文化の向上だと思う。フツウがよくなることがカンジンであって、それは酒も食もおなじだろう。 で、おれやクボシュンさんのように大酒飲むことが好きなものには、たくさんうまく飲めることがカンジンなのである。その点でも、高千代の普通酒は、よい酒だ。 というわけで、さらによく飲みかつ語り合い、これでもう完全に泥酔状態に陥る、もうほとんど覚えていない。出かけていたクボシュンさんの奥さんが山ウドや竹の子の山菜をたくさん持って帰ってきて、土産にいただき、夜も10時過ぎてから「おっ泊まるところを探さなくては」とクボシュンさんに旅館に電話をかけてもらった。そして人通りの絶えた故郷、六日町の商店街をヨロリヨロリ歩きながら、なんとか寝床へたどりついたのだった。 次回、いよいよ最終回。の、予定。 |
ところで、最初の方に書いたが、まつりはインド舞踊で始まった。なぜインド舞踊なのか。じつは高千代酒造の専務は女性である。そして、もう長いあいだ「ボランティア」なんてことが流行する前から、インドに学校をつくるための助力をしてきた。 酒宴が終って、クボシュンさんの奥さんの迎えのクルマが来るあいだ、この写真の前で、やや酩酊したアタマで、その話をうかがった。 こういうことをやっているひとは、とかく「わたしは正しい立派なことをしているのよ」と胸をはり押し付けがましい態度のひとが少なくないが、専務の場合はおだやかにひかえめに素朴に語るのだった。これが「高千代酒造の人柄」だなと思った。 去年のビデオから専務を見つけた。 |