特集・居酒屋食堂考 その1

いづみや 第4回最終回
(04年4月17日掲載)

ご注意=なかの写真はすべて「いづみや第2支店」。第1回の全景写真の左側の建物1階です。

前回から、だいぶ日にちがすぎたが、忘れていたわけではない。

とにかく、現代の日本人は、よく酒を飲む。どうして、そんなに飲むのだコノヤロウ! と、いいたいぐらい飲む。その酒税分を考えたら、よく税金を払う国民だわ、と思うのだが、自分もその一人なのだった。

おれの親父も酒飲みだったが、おれのように毎日晩酌を飲むということはなかった。おれが1962年に上京したての大衆食堂でも、酒を飲む姿はあったが、ごく限られていた。飲んでも軽く晩酌というのがふつうで、若いものは学生はもちろんサラリーマンも飲まない。飲んでながっちりというのは、ときたま労務者風ぐらいのものだった。大衆食堂とは、飲んでもサッとで、メシもサッと食べる、というサッサッサッなのだった。というわけで、大衆酒場と飲み屋は、生活習慣的にも厳然と区別された空間だったといえるだろう。

居酒屋にしても、記憶にある古い(だいたい1960年代後半だが)そこでは、茶漬けやニギリメシぐらいはあったと思うが、いまのように「定食」のある居酒屋や、そこで「定食」を食べる客の姿も、ほとんど見たことがない。

と考えたときに、居酒屋と大衆食堂の境界は、「定食」があるかないか、あるいは、というより、「みそ汁」があるかないかではないかと思う。

それはともかく、最近、例の大戸屋という大衆食堂チェーンで、一人で晩酌をやって定食を食べている親父たちの姿を見かけるが、じつに、哀れをさそう姿である。

あのコギレイな店で、親父は一人だとカウンターに座らせられ、あのコギレイな白木づくり風の膳にコギレイな器にコギレイに盛られたゆえに、力強さをそぎ落とされたような定食を前に、親父は肩を落し気味に、コギレイなトックリをもちコギレイなチョコについでは飲みし、鬱々と考えごとをしながらの様子で飲み食べ、出て行くのである。わずかの微笑も浮かべることはできないほど、そこは慇懃無礼に、機械的に管理された空間なのである。

と考えたときに、この「いづみや」のような大衆居酒屋食堂が、どんなに癒しをもたらす人間的な空間なのか、わかるだろう。まず、この、コキタナイ雑多なメニュー書きが、ホーラ、ここでは好き勝手にやってちょうだい、ここはアナタの天国よ、一人笑おうが泣こうが、お好きにどうぞ、と語りかけてくれているようで、もうこの空間に座っただけで、なんだかシミジミあたたかいうれしい気持になるのだ。店の効率的都合で売れ筋だけを整え、しかも注文すると「それは、今日はいい品物が市場になかったもので、アリマセン」といって、えらそうに繕うような店とは、ちがうのである。

ここは、いつも、歓迎歓迎歓迎、さあさあ、元気のよいひとも寂しい元気のないひとも、どうぞ好きなように気楽にすごしてください、という雰囲気にあふれている。そして、じつに延々、前回の投書にもあるが、何時間いても平気なのである。

ま、そういうわけで、大歓迎メニュー一覧です。酒のメニューが写ってないのだが。ビール、清酒、焼酎、泡盛……、なんでも安酒はあり。メニューは、03年11月のもの。

定食……サバ味噌定食580、レバニラ定食750、野菜炒め定食750、カキフライ定食、トンカツ定食600、焼肉定食、さしみ定食、にこみ定食、魚フライ定食

丼物……カツ丼580、親子丼530、玉子丼450、牛丼450、うな重1100、うな丼1000

御飯類……カレーライス450、のり茶漬450、チャーハン530、チキンライス530

みそ汁120、とん汁150、玉子スープ330

麺類……ラーメン450、タンメン450、ミソラーメン450、もやしそば500、焼きそば500

生物料理……まぐろ550、いか580、まぐろ納豆450、いか納豆450、山かけ400、月見360、まぐろぬた400、まぐろぶつ350、たこわさ310、いか下足300、〆鯖300、さらしくじら500、たこぶつ300、板わさ280、うにくらげ330、わさびくらげ330、酒盗300

サラダ料理……ポテトサラダ230、ハムサラダ330、ロースハムサラダ480


揚げ物料理……コロッケ230、ハムカツ250、とり唐揚げ430、とんかつ500、イカフライ300、魚フライ300、カキフライ330、串かつフライ330、ポテトフライ300、わかさぎ唐揚330、厚揚300、春巻350、さつま揚300

おでん400、牛レバー刺400

(白板)鯖塩焼き、かぶあんかけ、ハンペン焼き、300YEN

梅干し 1ヶ100

お手持ちのビール券でご飲食ができます

焼き物……レバ焼き300、なんこつ焼き300、つくね300、タン塩焼き300、うなぎ肝焼き400、蒲焼き800、ぶり照焼400、とり皮串300、とりにんにく焼き300、アタリメ300、目ざし300

一品料理……お新香盛合せ250、キムチ230、おひたし230、しらすおろし230、なめたけおろし230、オニオンスライス280、冷奴170、肉豆腐250、きんぴら250、トマト250、目玉焼300、オムレツ350、ハムエッグ330、塩辛250、ロースハム380、ピーナツ230、チーズ230、焼きのり150、もろきゅう250、ひじき250、レバニラ炒め400、野菜炒め400、シューマイ300、餃子300、焼き肉400、ハム280、柳川なべ500、カツ煮380、さばみそ煮330、にこみ豆腐300

いづみや名代 もつ煮込み150 大盛300



ここは、もっとも、都会らしい空間で、田舎には、こういう空間はないし、ありえない。森ビルが、都会らしい空間と思うのは大間違いだ!あの空間は田舎のどこにでもあるような公共的な空間を、ただデカクしただけ。こういう猥雑な空間こそ、都会である。


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