体験とエピソードによる「生活料理学」入門1970年代前半の日本料理/料理学校と江原恵『庖丁文化論』のインパクト BOOKMANの会 03年6月16日 発表資料
(一部要約訂正 03年7月24日掲載)

オオオオオッ、一般応募のただの板前が書いた懸賞作品が受賞して本に。日本料理界、料理学校、NHK……「料理のプロ」は慌てふためき、あるいは怒り、あるいは称賛……アタフタ、アタフタ。そして料理学校もNHKもかわった、変わらなかったのはなにか?


(左)1974(昭和49)年2月、ときのエッソ・スタンダード石油轄L報部発行のエナジー叢書(アノ高田宏編集長)による『庖丁文化論』(右)同年10月講談社刊の『庖丁文化論』。この間に、遠藤は詩人・長谷川龍生の紹介で江原と会いギャオギャオワオワオと意気投合。のち行動をともにし80年代初頭に「江原生活料理研究所」をつくり渋谷東急本店前に「しる一」を出店する実験へ。

『庖丁文化論』のカゲキな発言…「名人たちの権威を信頼し、その権威の料理を模倣し、さらにそのまま公衆に受け売りしてかえりみない料理学校の先生たちの姿勢は、これは大いに批判されてしかるべきだろう」「日本料理は敗北した…それでは日本料理の未来史はどうあるべきか…料理屋料理を、家庭料理の根本に返すことである。その方向以外、日本料理を敗北から救うてだてはないだろう」そして「生活料理学」へ



なぜ、ここにいるの? 『東京定食屋ブック』02年→『ぶっかけめしの悦楽』 99年→『大衆食堂の研究』95年→生活料理研究所(80〜83年)→江原恵との出会い(74年)→長谷川龍生→料理の先生への疑問→企画会社へ転職(71年)入社すぐ大手食品メーカーの担当。食品のマーケティングへ。

「家庭料理は日本料理ではない」にギャッ  ジャおれが食べてきたのは日本料理じゃないのか! 料理の先生への疑問「生活の実態に即してない料理」→長谷川龍生に相談「オッそれならいい男がいる」と「庖丁文化論」で話題になりかけていた江原恵。74年。あるいは73年末か? たちまち意気投合

70年代前半…「食べ歩きブーム」(70年『anan』71年『nonno』)。「料理学校ブーム」…テレビなどのマスメディアで活躍する料理の先生、「魚菜学園」の田村魚菜、「渋谷クッキングスクール」の清水桂一、あるいは江上トミなど。
料理学校の転換期…花嫁修業としての料理学校から料理趣味としての料理学校へ。家父長制家族専業主婦、女20〜25歳でオールドミスの時代の終焉。核家族化、個人主義へ。旦那さまのため子供のためお客様のための料理から、自分が楽しむ料理へ。
食文化の転換期…一般に「洋風化」といわれる台所の「近代化」と流通の「近代化」。食のファッション化、レジャー化、ファミレス、ファーストフード店の進出。輸入食材、加工食品の増加。70年代前半のスーパーには男の客がいなかった、後半には「男子厨房に入ろう会」「ペアで食事の支度」がファッションへ。庖丁のない世帯。「伝統回帰」
消費様式の転換期…大きな背景として「工業化」「マニュアル化」。生活の「ライフスタイル」というマニュアル化、若者向け生活マニュアル雑誌の流行。81年田中康夫『なんとなくクリスタル』
→→→80年代以後のガイドブック片手の「マニュアル・グルメ」の爆発的流行へ。家庭あるいは普段の生活に基礎のない「グルメ」。生活と創造のない消費ファッションとしてのグルメ。

庖丁文化論「日本料理の伝統と未来」…なぜ日本料理は、かくも簡単に衰退したのか
料理屋料理と家庭料理の二重構造、同一の体系ではない。家庭や生活から遊離した料理屋料理が「先生」になっている。いまでも「日本料理」というと懐石料理や旅館の料理。たとえばフランスの料理学校ではフランス料理はフランスの地方料理の総合であると教える、それが基礎、ところが日本は……。料理屋料理の日本料理には「割主烹従」の庖丁文化しかない。儀式料理、「味覚」を気にしないゲイジュツ。

実際に応用できない料理の基本、伝統的な野菜だけで成り立たない食生活、料理の“知識”とは、生活する料理。台所でニンジンをかじってみることから。「生活料理学」という表現で料理の「復権」をめざす。1980年10月江原と遠藤、「生活料理研究所」開始。1982年、『「生活のなかの料理」学』。

生活料理的名言(江原恵)…タマネギを主材料にした、まったく新しい料理を、一つでも編み出すことのできる人は、美味学に必要な想像力を、かなり豊にもっている人である。

料理のススメ…総合的知識と感性の世界。インスタントモノを使ってもいいから、とにかく、料理をつくろう!フツウの人間がフツウの台所でフツウに「よりうまく」と取り組むことで料理文化や味覚文化は豊かになってきた。




関連年表

1882年(明治15) 赤堀峯吉、東京・日本橋に「赤堀割烹教場」を開設?
1885年(明治18) 東京ガスの前身、東京府瓦斯会社設立
1894年(明治27) 東京ガス、このころ炊事や暖房に使われ始める

1904年(明治37) 辰巳(阿部)浜子誕生
1908年(明治41) 『婦人の友』創刊。
1913年(大正2) 東京ガス、第一回料理講習会を開催(牛込派出所)
1917年(大正6) 『主婦之友』創刊。
1923年(大正12) 関東大震災時、東京ガス需要家の約半数11万件消失
1926年(大正15) 3代目赤堀峯吉、NHKラジオの料理番組に出演?
1930年(昭和5) 『日本料理研究会』創立。創立者・初代会長「三宅孤軒(みやけ こけん)」
1933年(昭和8) 香川綾・昇三、『家庭食養研究会』(女子栄養大学のもと)設立
1935年(昭和10) 家庭食養研究会『栄養と料理』創刊
1937年(昭和12) 『女子栄養学園』設立(旧家庭食養研究会)
1938年(昭和13) 東京ガス需要家100万件に
1949年(昭和24) 『日本料理研究会』再建(名目「支部」、実体「部屋」)
1949年(昭和24) 田村魚菜、自由が丘に『自由が丘お料理塾』を開設。
1950年(昭和25) 『女子栄養短期大学』設立(旧女子栄養学園)
1952年(昭和27) 学校給食全国に拡大。
1954年(昭和29) 辰巳浜子、婦人之友社の取材に応じ、アジ料理など数品調理。
1955年(昭和30) 東京ガス需要家38年の水準100万件に
1956年(昭和31) 『日本料理の基礎』主婦の友社 プロ料理の権威へ、グラビア写真の活用で見る料理
1956年(昭和31) 民放テレビ料理番組。三種の神器=電気洗濯機、掃除機、冷蔵庫。DK付公団住宅。
1957年(昭和32) NHKテレビ料理番組
1959年(昭和34) 辰巳浜子、日本テレビで「お年寄りのためのもてなし料理」出演
1961年(昭和36) 『女子栄養大学』設立(旧女子栄養短期大学)
1962年(昭和37) 辰巳浜子、NHKきょうの料理、以後年に数回
1970年(昭和45) ファミリーレストラン
1974年(昭和49) 江原恵『庖丁文化論』
1975年(昭和50) 江原恵『まな板文化論』、10月30日NHKでビデオ撮り
1977年(昭和52) 江原恵『食通以前』、NHK出演、6月11日辰巳浜子死去
1978年(昭和53) 「食文化」流行
1980年(昭和55) 10月江原生活料理研究所開始
1981年(昭和56) 3月渋谷東急本店前に「しる一」開店
1982年(昭和57) 江原恵『「生活のなかの料理」学』
1983年(昭和58) 江原恵『カレーライスの話』『実践講座 台所の美味学』、江原生活料理研究所閉鎖
1984年(昭和59) 農林水産大臣許可に基づき、社団法人『日本料理研究会』設立現在にいたる
1986年(昭和61) 江原恵『料理の消えた台所』
1988年(昭和63) 江原恵『家庭料理をおいしくしたい』
1990年(昭和65) 江原恵『辰巳浜子―家庭料理を究める』

NHK「きょうの料理」主な出演者=江上トミ、赤堀全子、飯田深雪、河野貞子、酒井佐和子、土井勝、辻嘉一、本谷滋子、村上昭子、辰巳浜子



食文化本の年表 戦後  ■食文化本のドッ研究
(2002年11月14日版)

楽しい家庭料理 黒田初子 1948年 北京書房
手軽にできる家庭料理の作り方 的場多三郎 1949年 文祥堂
愛の料理集 東佐与子 1949年 国土社
美味求真 木下謙次郎 1950年 酣灯社
一年中のお惣菜の作り方 婦人倶楽部 1952年 大日本雄弁会講談社
うまいもの 多田鉄之助 1952年 現代思潮社
バランスのとれた家庭料理 小田静枝 1952年 七星閣
栄養的に組み合わせた日常料理献立 森川規矩 1953年 第一出版
荻舟食談 本山荻舟 1953年 住吉書店
食生活改善の実際 高橋武雄 1954年 朝倉書店
食いしん坊 小島政二郎 1954年 文藝春秋社
日本料理の基礎 1956年 主婦の友社
あまカラ 小島政二郎 1956年 六月社
100万人の料理 清水桂一 1956年 万記書房
東京風物名物誌 岩動景爾 1956年 魚住書店
飲み食ひの話 獅子文六 1956年 河出書房
あなたは食卓の演出家 田村魚菜 1956年 新樹社
私の料理 江上トミ 1956年 柴田書店
全国うまいもの 多田鉄之助 1956年 食味評論社
全国うまいもの旅行 日本交通公社 1956年 日本交通公社
1956年、民間放送テレビ料理番組開始
食は広州に在り 邱永漢 1957年 竜星閣、75中公文庫
100万人の健康食 北辰堂編集部 1957年 北辰堂
日曜日の食卓にて 福島慶子 1957年 文藝春秋新社
家庭料理 赤堀全子 1957年 柴田書店
酒の肴・500種 新津保修 1957年 田中書店
1957年、NHKテレビ料理番組「きょうの料理」開始
舌鼓ところどころ 吉田健一 1958年 文藝春秋新社
食物事典 食通入門  山本直文 1958年 柴田書店
料理のお手本 辻嘉一 1958年 文藝春秋新社、79中公文庫
江戸食物独案内 磯部鎮雄 1958年 江戸町名俚俗研究会
東京のたべものうまいもの 中屋金一郎 1958年 北辰堂
100円からの東京たべあるき 中屋金一郎 1959年 北辰堂

60年代
御飯の本 辻嘉一 1960年 婦人画報社
手しおにかけた私の料理 辰巳浜子 1960年 婦人之友社
舌の散歩 小島政二郎 1960年
日本食物史 樋口清之 1960年 柴田書店
食物食事史 大塚力 1960年 雄山閣
食通入門 大久保恒次 1961年 創元社
辻留・料理のコツ 辻嘉一 1961年
巴里の空の下オムレツのにおいは流れる 石井好子 1963年
私の食物誌 池田弥三郎 1965年 河出書房新社、80新潮文庫
東京横浜安心して飲める酒の店 池田弥三郎 1965年 有紀書房
東京横浜三〇〇円味の店 山本嘉次郎 1965年 有紀書房
東京横浜おいしい喫茶と甘党の店 ダーク ダックス 1966年 有紀書房
東京いい店うまい店 文藝春秋編 1967年 文藝春秋
食味歳時記 獅子文六 1968年 文藝春秋
味な旅 舌の旅 宇野鴻一郎 1968年
娘につたえる私の味 辰巳浜子 1969年 婦人之友社
舌の世界史 辻静雄 1969年
食生活を探検する 石毛直道 1969年 文藝春秋
米食・肉食の文明 筑波常治 1969年 NHKブックス
うそつき食品 郡司篤孝 1969年 三一書房

70年代
檀流クッキング 檀一雄 1970年 サンケイ新聞社、75中公文庫
洋食考 山本嘉次郎 1970年 すまいの研究社
1971年9月、おれエンテツ、企画会社に転職し食品のマーケティングの仕事を担当、食関係の本を読むようになる
食料の経済分析 唯是康彦 1971年 同文書院
たべもの文明考 大塚滋 1971年 朝日新聞社
男のだいどこ 荻昌弘 1972年 文藝春秋、76文春文庫
私の食物誌 吉田健一 1972年 中央公論社、75中公文庫
食いもの好き 狩野近雄 1972年
料理の起源 中尾佐助 1972年 日本放送出版協会
日本三大洋食考 山本嘉次郎 1973年 昭文社出版部
食卓の情景 池波正太郎 1973年
洋食や 茂出木心護 1973年
料理歳時記 辰巳浜子 1973年 中央公論社、77中公文庫
美味放浪記 檀一雄 1973年
日本人の食物誌 近藤弘 1973年 毎日新聞社
たべものと日本人 河野友美 1974年 講談社
贋食物誌 吉行淳之介 1974年
魯山人味道 北大路魯山人 1974年 東京書房社、80中公文庫
庖丁文化論 江原恵 1974年 講談社
新しい天体 開高健 1974年
食の文化史 大塚滋 1975年 中央公論社
まな板文化論 江原恵 1975年 河出書房新社
食通知ったかぶり 丸谷才一 1975年 文藝春秋、79文春文庫
食は広州に在り 邱永漢 1975年 中公文庫
檀流クッキング 檀一雄 1975年 中公文庫
私の食物誌 吉田健一 1975年 中公文庫
大人のままごと 荻昌弘 1976年
食卓の文化誌 石毛直道 1976年 文藝春秋
日本人の味覚 近藤弘 1976年 中公新書
日本民族の自立と食生活 農文協 1976年 農村漁村文化協会
たべもの古代史 永山久夫 1976年 新人物往来社
男のだいどこ 荻昌弘 1976年 文春文庫
明治・大正・昭和食生活世相史 加藤秀俊 1977年 柴田書店
食通以前 江原恵 1977年 講談社
散歩のとき何か食べたくなって 池波正太郎 1977年
料理歳時記 辰巳浜子 1977年 中公文庫
食の社会学 加藤秀俊 1978年
豆腐屋の喇叭 薄井恭一 1978年
野生の食卓 甘糟幸子 1978年 文化出版局、83中公文庫「野の食卓」
肉食文化と米食文化 鯖田豊之 1979年 講談社
食物の生態誌 西丸震哉 1979年 中公文庫
食通知ったかぶり 丸谷才一 1979年 文春文庫
料理のお手本 辻嘉一 1979年 中公文庫

80年代
料理の四面体 玉村豊男 1980年 鎌倉書房
日本の食事様式 児玉定子 1980年 中公新書
私の食物誌 池田弥三郎 1980年 新潮文庫
魯山人味道 北大路魯山人 1980年 中公文庫
ショージ君の「料理大好き」 東海林さだお 1981年
滋味風味 辻嘉一 1981年
味覚法楽 魚谷常吉 1981年
東アジアの食の文化 石毛直道 1981年 平凡社
食における日本の近代化 大塚力 1982年
「生活のなかの料理」学 江原恵 1982年 百人社
日本型食生活の歴史 安達巌 1982年 農村漁村文化協会
日本食生活文化史 大塚力ほか 1982年 新樹社
イモめし時代の雑記帳 川上行蔵 1982年 健友館、65「粉末とろろ」の再編版
復刻「軍隊調理法」 小林完太郎解説 1982年 講談社
カレーライスの話 江原恵 1983年 三一新書
にっぽん洋食物語 小菅桂子 1983年 新潮社
河童のタクアンかじり歩き 妹尾河童 1983年
歴史はグルメ 荻昌弘 1983年
実践講座 台所の美味学 江原恵 1983年 朝日新聞社
日本食生活史年表 西東秋男 1983年
食糧 何が起きているか 朝日新聞経済部 1983年 朝日新聞社
グルマン 1984 山本益博 1983年 新潮社
グルマン 東京フランス料理店ガイド 山本益博 1983年 新潮社
野の食卓 甘糟幸子 1983年 中公文庫
世界食べちゃうぞ グルメワールド 1 日本テレビ 1984年
東京味のグランプリ 山本益博 1984年 講談社
むかしの味 池波正太郎 1984年
食指が動く 邱永漢 1984年
全日本食えばわかる図鑑 椎名誠 1984年
カレーライスがやって来た 大塚滋 1984年
食は東南アジアにあり 星野龍夫・森枝卓士 1984年 弘文堂
一億総グルメ時代の仕掛人たち 平泉悦郎 1985年 朝日新聞社
料理の消えた台所 江原恵 1986年 草思社
スーパーガイド東京B級グルメ 文藝春秋編 1986年 文春文庫
食べるたびに、哀しくって… 林真理子 1987年
男の手料理 池田満寿夫 1987年
食卓の上の小さな混沌 四方田犬彦 1987年 筑摩書房
グルメ時代の礼儀(マナー)と作法(ルール) 草柳大蔵 1987年 グラフ社
家庭料理をおいしくしたい 江原恵 1988年 草思社

ザ大衆食トップ貧乏食通研究所生活料理と江原恵