ザ大衆食トップブログ版日記

寄稿
毎日新聞書評欄2017年9月17日(日曜日)、「昨日読んだ文庫」


(2017年11月22日掲載)

全国紙の学芸欄や書評欄などは縁のない世界で、だいたい新聞もとってないから見たこともないのだが、トツゼン依頼があって、寄稿した。

文庫本はたくさんあるし、食に関する文庫本も多い。その中で、おれが最も影響受けて、よく読んでいる2冊について書いた。

中公文庫の玉村豊男『料理の四面体』と、梅棹忠夫『文明の生態史観』だ。どちらも、初めて読んだときは、中公文庫ではない。

『料理の四面体』については、「書評のメルマガ」に連載した「食の本つまみぐい」にも書いている、拙著『大衆めし 激動の戦後史』などにも紹介している。料理の原理を知るには、これほどよい本はない。読んだ人は、たいがい「目からウロコ」という。

『文明の生態史観』は、食のことを語ったものではないが、食を文明史的文化史的に読み説くうえでは欠かせない。学術の本かも知れないが、梅棹さんの書き方は、やさしくわかりやすい。飲食の本にありがちな、軽妙でエラそうなヘタなエッセイなど比べものにならないほど、おもしろい。視野が広がる。

この2冊に、この2冊と比べると理屈っぽく難しいが江原恵の『庖丁文化論』や、その後の生活料理に関する著作を加えたのが、おれの基本だ。

『ぶっかけめしの悦楽』『汁かけめし快食學』『大衆めし 激動の戦後史』は、これらの本の影響のもとに成り立っている。

飲食のことは誰でも体験しているし関心があるから、誰でも書くことができるし、表現のネタとして売りやすい。というわけで、飲食本は、出版やテレビほとんどのメディアで人気を集め、ハンランしている。

一方で、飲食を語ることが教養的娯楽化し、消費しやすいように軽いほどよく、オベンキョウが嫌われる。軽さとオベンキョウが相反するのもオカシイが、飲食の話には根拠のないことが多い。いまでも、「素材」と「作り方」で料理についてわかったつもりの話しがマンエンしている。

食や料理など、身近なことだからオベンキョウが必要と思うが、そうならないところが現代の消費主義の風潮といえるか。

とくに、なんとなく馴染んでしまった「系譜論」の克服は、大きな課題だろう。

もしオベンキョウするなら、この2冊から始めるのがよいと思う。

料理は構造と機能を持っている。

じつは、構造と機能は料理だけのことでなく、人間が生存する宇宙のことでもあるのだ。料理をすること、料理を知ることは、森羅万象にわけいることでもある。

たかが、どんぶりめし一杯でも、なかなかおもしろい。



絵は、舟橋全二さんです。

全文、以下のとおり。


 私が食の関係の仕事についたころは、石毛直道が『ミセス』1971年6月号(文化出版局)に「錦市場探訪」を書いて注目をあびていた。食生活を文化としてとらえ直す食文化論が盛んになり、70年代後半には「食文化ブーム」といってよい状況が生まれていた。文壇や各界の著名人による気楽なうまいもの話が圧倒し、食を語ることが娯楽化した。そんな中、一冊の本が波紋を投じた。

 80年1月、鎌倉書房から刊行。『料理の四面体』という謎のタイトル、作者は無名だった玉村豊男。私の周辺では見知らぬ国からミサイルを打ちこまれたような騒ぎになった。たいがいの人が「素材」と「作り方」で料理についてわかったつもりの話しに興じているところへ、想像外の方向から「料理」というものが提示されたのだ。
 
 料理の構造を明快に語る簡潔な図が意表をついた。「イッパツで料理の一般的原理を発見し」「次から次へと料理のレパートリーが無限に出てくる」大胆な試み。四面体つまり三角錐の頂点は「火」、底面は「ナマものの世界」、底辺の三つの頂点が「水」「空気」「油」で、「火」に近いほど加熱する料理が位置する図だ。

 その本の発売から一年後、私は料理研究家の江原恵と「江原生活料理研究所」を開設した。「日本料理」や「和食」「洋食」「中華」といった観念にとらわれず、生活の中の料理を探求する取り組みだった。『料理の四面体』は、その方法を、衝撃的に示してくれた。

 おなじころ、梅棹忠夫の『文明の生態史観』(67年1月、中公叢書)と出合った。料理の本ではないが、収録されていた「文明の生態史観」に「系譜論と機能論」という項があった。とかく生活から遊離し由緒由来大事の系譜論や職人論で語られがちの料理を、機能論から考える展望を私は得た。

 私に料理の構造と機能を気づかせ、忘れられない衝撃と展望をもたらした2冊は中公文庫の現役で、鮮度も衰えていない。読み返しては台所に立つと、料理からみえる森羅万象はおもしろいし、たしかに料理のレパートリーが広がるのだ。(フリーライター)


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