特別連続報道番組?
文句あるか!の[やよい食堂]
03年2月4日記
第3夜 やよい食堂の前に立つ
とうちゃんとの待ち合わせは、やよい食堂で10時半。ちょうどの時間に、その前に立った。そのとき、前方から一台のバイクが近づいた。オレンジの車体、フルフェイスのヘルメット姿、すぐとうちゃんと察しがついた。

とうちゃん、どんなオヤジかと思ったら、ヘルメットの下からあらわれた顔は、とてもとうちゃんとは思えない若い男。ちょっと痩せ型の、コジャレたカフェが似合いそうなイイ男。ちっとも「千葉」っぽくない。ま、でもきっと大めしくらうのだろう、若いライダーなのだしと、とりとめのないことを考えながら初対面のあいさつ。

で、しかし、2人で並んでながめたやよい食堂は、のれんが下がってない。10時開店のはずなのだが……。しかし、看板は、いくつもついているが、どれもまっとうとはいえないねえ。それに、隣の「小沢自動車」といい、まさに高度成長昭和のままだよ、電柱の商店街の看板は「昭和会」だし。
とうちゃんは食堂の横にバイクを置く。このコカコーラのレトロしている看板、これは古い大衆食堂の証明。コカコーラが、まだ日本では知名度が低かったころ、看板サービスで街中へ広告進出した。頭がいい。当時は大衆食堂がいたるところにあったのだから、その効果は絶大。古い大衆食堂のコカコーラ宣伝入り看板は、そういう名残り。いま見ればコカコーラとは縁がなさそうな野暮な大衆食堂に、やたらコカコーラの看板があるわけなのだ。

しかし、当時は大衆食堂といえばハイカラで、カツやチキンライスなんてのもハイカラなものだったし、そういやハムエッグなんてのも「洋食」のハイカラ感覚で値段も贅沢クラスだった。それにコーヒーがあるところもあったな、もちろんインスタントだけど。大衆食堂は、けっこうハイカラしていたのだよ。そういうわけで当時はコカコーラの看板があっても違和感はなかった。いまから思えば、不思議。
入口の戸を開けようとしたがあかない。中からはテレビの音や、ひとの気配がする。と、駐車していた軽トラックで配達にきていたらしいオヤジが横の出入り口から出てきて、「休みじゃないよ、いま仕込みしているから、もうすぐだよ」とかいって去る。

ほこりにかすむショーウィンドーみながら思う。本当に大衆食堂の惰性は尊いものがある、なんでもそのまま残るからねえ。「更新」という言葉は存在しないかのようだ。とにかく新しいことはよいことだと、そこにしか価値を見いだせないかのように、どんどん「更新」するのがあたりまえの時代に、この惰性は偉いよなあ。

それにしてもサンプルに、わざわざサランラップをかけてあるのは、ほこりがかぶらないようにとの配慮というか、洗い掃除しやすいようにとのことなのだろうけど、その上にしっかりほこりがつもっていらあ。どうせサンプル見る人なんかいないだろうが、どうせ見るなら、これぐらい惰性のかんじがいいものだね。ここは、いいねえ、じつにいいねえ。

それにしても寒いねえ、とうちゃん。「横から入れてもらって、なかで待たせてもらいましょうか」「とうちゃん、そりゃいい考えだ」と、横の入口へ向かうと、ちょうど白菜の束をぶらさげたオバサンがきて、「どうぞどうぞ、ここから入って」。なかに入ったら、なーんだ、もうビール飲んでいる客がいるじゃねえか。このいいかげんさ、たまんなくいいね。


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