ヤキメシ物語と遠太
「居酒屋」として有名だけど、メニューからすれば大衆食堂の居酒屋化の遠太。
(03年4月12日記)
ヤキメシには、たくさんの思い出がある。
なにしろ、おれがカレーライスの次に作り方を覚えた料理だ。しかし、自分でつくった回数というと、カレーライスより、はるかに多い。カレーライスが国民食ならヤキメシも国民食でなければならない、と、個人的には固く思うのであります。
遠太のヤキメシ
おれがヤキメシの作り方を覚えたのは中学2年のときだ。その春、まだ町には雪が残っているころ、長年肺病で寝たり起きたりの母は、前年末に喀血してから病床を離れることができず、当時としては生死をわける大手術をしなくてはならないことになった。そして山の町から遠く離れた海の町にある国立結核療養所で一年間すごすために家を出た。
で、家には、おれと父の2人だけになった。ま、それまでも、1ヶ月ぐらいの短期入院ならよくあったことだが、こんどは一年間、しかも母は生きて帰ってこれるかどうかわからないということだった。そこで、おれもめしのしたくから片付けを覚えなくてはならなくなった。ウチの商売はミシンの販売と修理で、父は外回りのために家をあけることもあり、一人で食事を作って食べなくてはならないこともある。そのとき、糠床の管理からイロイロ教えられたのだが、父が教えてくれた料理の一つがヤキメシなのだ。
タマネギ、ニンジン、ピーマンをみじん切り。魚肉ソーセージをテキトウに切る。フライパンで油を熱し、溶いた卵を入れてかきまぜ、テキトウに固まったところであげ、皿に移す。フライパンに油をひき、バターを一片落とす。タマネギとニンジンと魚肉ソーセージを入れ、塩、コショウ、味の素で味付けをしながら炒める。メシを入れ、ほぐしながら、炒める。ピーマンを入れる。最初に焼いたタマゴを入れ、よくかきまぜあわせて出来上がり。というものだった。ゼイタクをしたいときは、魚肉ソーセージではなく、高価なコンビーフ缶を使うことが許された。これは、もう、サイコーにうまくできた。あとは、バリエーションとしてチキンライスなども覚えたが、なんといってもヤキメシが、自分では一番気に入ってよく作った。
で、これは、いまでも、いまではいつもコンビーフでやるが、おれのスペシャルメニューなのだ。うふふふ、歴代のカノジョには、必ずこれを作ってやったね。
最初のころは、ヤキメシはヤキメシだった。つまりチャーハンなるものを知らなかったのだ。いつ、どう、チャーハンを知ったか記憶にないが、あるときおれは父に「ヤキメシとチャーハンは違うのか」と聞いた。すると父は即座に断固として、「違う」と答えた。「どこが違うのか」「それは、あれは中華で、鶏がらのスープを使う、それに中華の調味料を使う」
よくわからなかったが、たしか高校生のころ、「チャーハンの素」という製品が販売になった。粉というか粒というか、それもピンク色やいろいろなものが混ざったのが袋に入って。そこで、それを使ってやってみて、なるほどヤキメシとチャーハンは違うと納得できた。ヤキメシはサッパリとしたあとくちに仕上がる。
さて上の写真。東京荒川区東日暮里にある<遠太>のヤキメシである。昨年02年の9月2日に撮影した。あ、すまん、これ食べ始めてから撮影したもので。うーむ、しかし、この「洋皿」に盛ったヤキメシ、むかしの言葉をつかえば、「ハイカラ」ってやつです。
遠太は大衆酒場として本や雑誌に紹介されて有名だが、サバ味噌煮定食や豚汁やポテトサラダなど、むかしながらの大衆食堂の定番メニューを揃えている。もとはうなぎ屋から大衆食堂的メニューを付加しつつ居酒屋化したのではないかと思われる。当然のごとくヤキメシがある。これが、ツマミにもよい。
ヤキメシに関していえば、このサイトにも紹介しているように、やはり荒川区の京成線新三河島駅近くの大衆食堂<むさしや>が印象的である。笹塚の<ときわ食堂>のヤキメシも、いかにもときわ食堂のご主人らしい味である。それぞれ、塩加減、バター風味や、あるいは具の大きさなど、ずいぶん個性が出る。その違いが、じつに楽しい。遠太の場合は、なんども食べているが、いつも違う風に出来上がる。量も盛り付けも、かなり気分しだいのようで、面白い。
ヤキメシの話になると、きまって、米粒がパラパラになるぐらい水分をとばして焼きあげるのがよいという、紋切り型の「説」が偉そうにする。そうだろうか。それは、チャーハンの中華料理人たちのいうことを鵜呑みにしてないだろうかと思う。ヤキメシの場合は、コメの旨味を生かし、それからその食感のためにも、やや湿り気が残っているぐらいに仕上げたほうがよいと、おれは思う。疑念のあるかたは、チャーハンとヤキメシをつくって、比較してもらいたい。もちろんパラパラメシが好きなひとがいるから、それはまた別のことである。
下の写真は、今年の2月28日の遠太の店内。遠太については、いずれまたあらためて、そのメニューについて考えてみたい。とりあえず呑兵衛には、「なめろう」がオススメ、かな。
こちらにも遠太の写真がありますよ。
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