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書評のメルマガ 07年12月16日発行 vol.340

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■食の本つまみぐい  遠藤哲夫
(26)いかがわしさの中の確かな料理
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魚柄仁之助『魚柄の料理帖 人生、楽しく食べること』光文社文庫、1997年

 前回の瀬尾幸子さんは、料理は作ってなんぼのものじゃ、ぐちゃぐちゃ能書きたれてないで、冷凍食品でもインスタントでもいいから使って、とにかく作ることだ、自分がうまくて楽しければいいんだよ、という主張で、おれは激しく同意する。今回も、チョットちがうが、その「系統」といえる。

 生協など「できるだけ安全性の高いハムを求めて共同購入の輪が広がっとるようですが、な〜んで「作ってみよう」って人がおらんでしょうネ? ハム会社と同じ作り方でなくても、プロの言う本物のハムでなくてもかまわんと思うですが、やろうともせずに、作れないと信じ込んでいるみたいです」こう言って作る「豚タンハム」は、たしかに、農林規格でいうハムではない。だけど、簡単に作れるし、うーむ、なにやら添加物だらけのハムよりハムらしいかもなあと思えるものができる。それに、なにもプロをお手本にすることはないのだ。

 全編そんな調子で、その文章のダサイ戯作調とあいまって、なにやらホラ吹きハッタリいかがわしい怪しいムードむんむんなのだが、カンジンな料理の作り方の説明は丁寧でわかりやすいし、やや奇怪と思われる手段を用いたりするが、「食生活を科学的に研究し」と言っていることにはウソがないようだ。なにより、食生活のあり方を、料理作りを通して考えさせるものがある。ひとの文章についてアアダコウダいえるおれじゃないが、おれには苦手だなあ読むのシンドイよと思う文章の中に、けっこう深いものがある。とかく、この著者の本は、「節約」「倹約」の本として読まれがちだが、それは皮相的すぎるだろう。

 いわゆる魚柄本は、『台所リストラ術』に始まって何冊あるか知らないし、数冊しか目を通していないが、おそらく本書が、このひとのなんやらよくわからない人となり、料理に対する考えや姿勢、特徴がよくまとまっているのではないかと思う。つまり、「人生、楽しく食べること」という副題だが、内容的には「人生、カネをかけないで、楽しく作って食べること」につきる。気どるんじゃないよ。ってことだ。

 本書は、カッパブックスから1995年に『あー! もったいない 1食100円の窮極のメニュー』のタイトルで出た。これも持っているが、著者本人は、大いに不満があったようで、構成をかなり変えている。実用書としての使い勝手か、エッセイとしての読む楽しみか、どちらかによるだろう。

〈えんどう・てつお〉フリーライター。
北九州市発行『雲のうえ』5号、大衆食堂特集「はたらく食堂」、好評無料配布中。携帯動画番組で都内の大衆食堂大衆酒場めぐりをやることに、年内は撮影に追われ、来年早々オンエアの予定。はたして?