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[書評]のメルマガ2004年2月9日発行 vol.199

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■食の本つまみぐい  遠藤哲夫
(10)外食産業誕生前夜のガイドブック
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文藝春秋編『東京いい店うまい店』文藝春秋、1967年

 1970年代の外食産業誕生前夜の刊行。人びとは、高度経済成長で少しばかりのカネとヒマを得て、なぜか関心は「家族で外食」へと向かった。「むかし、いいキモノをつくった女性が、それを見せにいくところは芝居だったが、近ごろは、レストランがえらばれる」。

「書中にあげた三五〇店は、次の各氏の推薦を得たものの中から、狩野近雄・古波蔵保好・東畑朝子の三氏が記事にしました」とある。店を推薦したのは、安藤鶴夫・飯沢匡・池部良・犬養道子・永六輔・江上トミ・川喜多和子・キノトール・木下和子・戸部晃・橋本豊子・原勉・三木鮎郎・六浦光雄・村島健一・村山光一の各氏。

 おれの知らないひともいるが、ま、教養的にも食味体験的にも、それなりの人たち。「文春実用百科」であるが、「教養書」のような文章で、やさしいが軽くはない。思わず頭から順に読んでしまう。「本格派」について、「いまはやりの言葉でいえば本格派」という表現で、じつに控え目。おれは「本格派」だぞ、なんていう態度は、ない。品のよい文化人がつくった実用書というアンバイで、良心的といえば良心的。そこを80年代以後、「何軒くいたおした」で登場する、野心満々の評論家たちにつけいられることになるのだが。

 西洋料理、ホテルの料理、中国料理、朝鮮料理、日本料理の順。ラーメンが囲みコラム。1「マキシム・ド・パリ」2「カルチェ・ド・シェフ・シド」3「小川軒」4「クレッセント」5「ラ・セーヌ」というアンバイに、以下350店。うふふふ、おれは70年代に、1と3と4は行ったね。4は、80年代になっても、何回か行ったね。おれって、けっこうA級。

 注目すべきは。それらに混ざって、神田神保町の「いもや」、御徒町駅高架下の「佐原屋本店」、新橋の「東京カレー」、自由が丘の「金田」など、労働者クサイ大衆的な店があるのだ。「手ぬぐいをキリキリとねじってハチマキにしたトラックの運転手たちがいそがしそうに飛びこんできて、またたくまに一粒の米もあまさず平らげる」と東京カレーの書き出し。マキシムのムール貝のポタージュが700円のとき、東京カレー100円、金田の鯵たたき60円。「いもや」の天ぷら定食130円イマ600円。しかし、でありながら、大衆食堂の「名店」は一軒も、のってない。

〈えんどう・てつお〉ヒマヒマ、飲んでいる。飲み会の予定で忙しい。