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[書評]のメルマガ2004年2月9日発行 vol.176

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■食の本つまみぐい  遠藤哲夫
(7)飲食店ガイドに光明ピカッ
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『ミーツ・リージョナル』2004年8月号食堂特集
散歩の達人別冊『東京夕暮れスタイル』2004年7月発売の大竹聡さん

「飲食店ガイド」の類は重要だ。これで食文化の程度や傾向がわかる。とりわけバブル崩壊後は、B級グルメだのワンコイングルメといった、フツーの飲食のそれである。しかし雑誌記事も含め点数は多いが、その内容たるや、食文化的な水準から見たらペンペン草の荒野。

 ファッション系なら、ガキのころからオシャレし、たくさんの店に出入りしても、それぐらいじゃライターになれない。ところが飲食系は、たくさん食べ歩いたぐらいの「実績」で、書くチャンスがある。なのにだから、飲食店ガイドも満足に書けない。書けないついでに「ガイド文ライター」をバカにし、「評論家」だ「エッセイスト」だとナニサマを気どる。「カリスマ」にバケもする。

 そもそもフツーの飲食をテーマにするのは、とても難しい。そのワケの1つは日本の食文化の特殊性にも起因する。素材や産地などモノのイワレや調理のウンチクなど、つくる側の情報を「賞味」することに眼目があり、自ら飲食を楽しむセンスの向上は眼中になかった。さらに近年のグルメブームは「情報競技」というべき風俗だ。「TVチャンピオン」番組に象徴される。単品あるいはジャンル別に、どこそこのナニナニはこうである、といった情報の熟知合戦。飲食の楽しみの探究とは縁のない情報通ごっこ。かくて食べる側の食文化つまりライターの文化度は貧弱のまま。店や料理に関する知ったかぶり、まるで関係ない周辺情報、お粗末なエッセイ? ナニサマが、なくてもよい文章を書き連ねる、自己満足や自己陶酔の惰性。安い遠洋冷凍マグロ刺身を食べる時も、あるいは売れ残り品や賞味期限切れ品の再流通再利用といったことで安さが維持されている店の飲食にまで、ありがたそうな素材情報や調理情報が舞う。陳腐というしかないが、フツーの飲食ほど食べる側の文化度が問われる。

 ああ、天にツバ、自分のことだ、自覚しているだけマシか。これじゃ、食文化に明日はない。そういや、飲食系の本がこれだけ出ているのに、食文化どころか程度の悪い事件つづきだ。……と思っていたら、そうでもない。なんかイイかんじ、に遭遇した。

 まず、関西の京阪神エルマガジン社発行の『ミーツ・リージョナル』8月号の食堂特集でオッと思った。そして先月発行、関東の散歩の達人別冊『東京夕暮れスタイル』の大竹聡さんの文章で、ピカッピカッときた。大竹聡さんは、ご存知、当メルマガの執筆者だが。これぞガイド、明るい予感。この傾向に期待しよう。ああ、興奮して前置きが長くなったので、本の紹介とはいえないが、突如オワリ。

〈えんどう・てつお〉フリーライター。『汁かけめし快食學』ちくま文庫から発売中。今年は地方テレビに2度出演したが、今度は全国ネット初登場。8月16日朝TBSの「はなまる」。たぶん数十秒も映らないだろうが、ビデオ撮りのため近々朝10時にTBSへ行かなくては。そんなに早く都心へ出たことがない。それにウチにはテレビがないのだなあ。いいのか? イイノダ。