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[書評]のメルマガ2004年6月6日発行 vol.167

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■食の本つまみぐい  遠藤哲夫
(6)とびちる放言力にやれやれ
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小泉武夫『食の堕落と日本人』東洋経済新報社、2001年。

 古い本ばかりじゃなくて、イマの本から。小泉武夫さんの本を一冊は取り上げなくてはならないね。なにしろ売れっ子、「著作は80冊を超える」と。で、どうせなら、このコワイ題の本にしましょうか。

「いまやこの国の多くの人たちは、全地球型雑食民族になってしまった感がある」「素晴らしかった日本人の食生活はいよいよ堕落化に走りはじめたようである」韓国人留学生がキムチを漬けられるように漬物の漬け方を知っている日本人はどれだけいるか! 堕落だ! ヘイすみません。日本酒があるのに、ビールやウィスキーやワインを飲むなんて、堕落だ! ヘイすみません。という調子で、こっちは平身低頭しっぱなし。

 小泉さんは、背広やジェット機はいいが、食は2千年の伝統でなきゃいけない、自分はそのようにしているが、おまえら日本人は堕落していると言いたいらしい。そして「丼に盛った熱い飯に、一缶一五〇円也のサバの水煮の缶詰をぶっかけて、その上から醤油を数滴たらして、それを今生の最高の丼飯だと賞味できる者こそ食の達人であり、文人なのである」なんて言うのだ。

 つまり、この本は、歴史的現実は無関係の放言集なのである。歯切れよくポンポンと、多くの人びとがイマの日本の「食」に感じるだろう不安や不信をつく。そのへんに喝采し溜飲を下げる読者が多いことを計算しているかのように。しかし、韓国のキムチが中国産を頼り、小泉先生が見習おうという「スローフード先進国」のイタリアはスパゲティをインド産に頼らなくてはならなくなった現実は、無視される。そして、いい古された実態ではない「素晴らしい日本食2千年の伝統」の旗が高々と翻るのだ。ああ、何度もくりかえされた光景だ。こうして伝統的な日本食は、資本主義の現実の中で迷走し衰退していくのか。やれやれくたびれる。

〈えんどう・てつお〉フリーライター。『ぶっかけめしの悦楽』に大幅に加筆した『汁かけめし快食学』がちくま文庫から、7月9日刊行です、780円。よろしく〜。