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書評のメルマガ03年10月13日発行 vol.136

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■食の本つまみぐい  遠藤哲夫
(2)たった2、3行で歴史に残る一冊に
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丸谷才一『食通知ったかぶり』文藝春秋、1975年

 大雑把な話、1970年代は、60年代に没落する「食通の時代」から80年代に騒然する「グルメの時代」への転換期だった。おっ、フツーの男が白昼堂々食べ物の話をするようになっちゃった。そこでは家庭料理の確かな積み重ねの歴史より、文士と学者の食談義、進化するオフセットカラー印刷のプロ料理が大受け大賑わい。料理より紙を食べる俄中流意識グルメが胎動す。で、出せば売れる。出版社は名のある文士に食談義を書かせ、文士は出版社の経費で高級料理店に出入りしていたし、お付き合いもあって書かないわけにはいかなかったらしい。それでかどうか丸谷才一の『食通知ったかぶり』、文藝春秋72年10月号から75年5月号まで掲載の16本をまとめて75年秋に単行本。

 あとがきで丸谷はタイトルが決まる経緯を述べ、「『食通知ったかぶり』は何よりもまづ文章の練習として書かれた」と。フーン、文章のことは知らないが、文壇交遊録と諸国味めぐりと文学的博識披露の3点セット型どおり。いやはや「文学」はあっても「食学」なんてないけど「食学」的には、どうってことない内容。がっ、丸谷才一といえばスゴイ影響力だったのだ。たった2、3行で、この本は食文化本の歴史からはずせない一冊になった。

 つまり文藝春秋72年10月号「神戸の街で和漢洋食」、括弧でくくり付け足しのように書いた「戦後の日本で食べもののことを書いた本を三冊選ぶとすれば」が威光を放ち一人歩きした。やっ、75年には三冊とも中公文庫。邱永漢『食は広州に在り』、檀一雄『檀流クッキング』、吉田健一『私の食物誌』である。厨房に入るべからずの男子は簡単に料理に目覚め(?)、77年「男子厨房に入ろう会」発足、男の料理ブーム。79年『食通知ったかぶり』文春文庫に。仕方がない、次は一応この三冊だろうか。

〈えんどう・てつお〉先月60回目の誕生日、ボケ進めど老人力低し、北浦和駅そば赤提灯「志げる」でホッピーを飲み文庫本を読み野心を研ぐ