新潟日報とBSN新潟放送の共同企画
「食べたい!」は、
なかなか力の入った、
地方紙つまり現場ならではの面白い特集だ!
……エンテツも元旦から登場。
(04年1月15日掲載)
昨年末、エンテツの故郷の地元紙「新潟日報」からエンテツに電話があった。新潟日報とBSN新潟放送の共同企画で一年間、食に関する特集を組む、その最初の元旦の記事に「食と情報」というようなテーマで登場して欲しいということだった。
ちょうどエンテツは、三冊目の本の原稿を書き上げるのに忙しいときだった。しかし、学芸部のデスクにして新潟日報ただ一人の女性編集委員の森澤真理さんが、わざわざ取材に来てくださるという。では、と、暮れも迫った12月某日、浦和の伊勢丹のなかの喫茶店でお会いした。話すこと、約1時間。
どうやら企画全体が、まだ十分煮詰まっていないかんじもあって、というか、たぶん走りながら煮詰まっていくかんじもあって、エンテツは何も準備はしてなかったし話の的を絞りにくかったが、聞かれるままに体験的な話をした。「食と情報」ということなら、エンテツが食のマーケティングに関わり始めた1970年代から、「情報化社会」という言葉が生まれ情報化が進展する時代だった。体験的な話のネタはいくらでもあった。
その記事は、約1000字ぐらいにまとめられて元旦に掲載になった。事前に原稿のチェックはあったが、全貌がわからないままなので、自分の話の内容が間違っていないかどうかだけで、あとはおまかせ。
そして新聞が届いた。エンテツが登場する元旦の記事だけではなく、そのあとの連載の展開もわかるように、新聞のコピーが一緒だった。読んだら、なかなか面白いのである。さすが、新潟県では、「朝日」「読売」なんのそのと強い「新潟日報」だけのことはあるじゃないか。って、ことで、前置きが長くなったが、ここに紹介することにした。これは、食糧産地の有力な地方紙だからできることで、全国紙にはできないことであるがゆえに、あえて紹介したいのだ。
元旦の記事は、見開きで大きな見出し「移ろう食環境 世相を映す鏡に」。この共同企画のタイトルは「食べたい!」。リードには、こうある。
”食糧基地といわれる新潟に暮らす私たち。中国野菜の農薬問題などを受けて「安全な」「体にいい」「おいしい」ものを「食べたい」欲求は増すばかりだ。その半面、過剰なほどの健康志向や風評被害など、食をめぐるさまざまな問題も噴出している。新潟日報とBSNの共同企画「食べたい!」では県内の最前線の動きを追い、二〇〇四年の「食のかたち」を検証していく。プロローグで取り上げるのは知名度と人気が全国区になりつつある「新潟ラーメン」。ブーム発信の舞台裏を探るとともに、南魚六日町出身で大衆食の会(六〇)=さいたま市=に「日本人の食卓」の現在を読み解いてもらった。また、新井市出身で百歳になる現役料理研究家を訪ね「一世紀の食」の物語を聞いた”
エンテツは、元旦のプロローグの一端を担う役割である。それはどうでもよい。注目すべきは、この企画は、新潟の新聞だからできる、新潟ならではの特徴をよくとらえていることだろう。つまり、「食糧基地」といわれながら、都市化によって同時に消費地に「移ろってきた」新潟の姿がある。しかし、それは、また日本の、とくに戦後の日本の地方の姿であり、であるがゆえに、日本全国の「現場」の姿でもあると思われるのだ。
元旦のプロローグで、なにより驚いたのは、リード文にあった「新井市出身で百歳になる現役料理研究家」とは、飯田深雪さんであったことだ。ま、正直いうと、もう生きてはいまいと思っていたのだが、現役で活躍中なのだ。料理だけではなく、テーブルデコレーションの普及において先進的な役割を果たされた。
この飯田さんの百年を振り返る話と、「県内 食の歴史この100年」が見開きの右半分の記事。そして左半分は現在である。
「新潟4大ラーメン そのブームの背景は…」。大きく「『権威』がお墨付き」の見出し。「タウン誌、漫画で火 一気に全国区」と、最近、東京に進出して行列ができるラーメン、「燕・三条背脂系ラーメン」の「らーめん処 潤」の取材から、新潟が一躍ラーメン激戦区入りした背景を追う。
県内タウン情報誌「Komachi」の編集長は言う。「全国クラスの”権威”に認知されないとヒットしない面がある。ラーメン王石神さんのお墨付きが付くことで、新潟の人も初めてその価値に気付いたのではないか」。
「ラーメン王石神」さんとは、全国何千軒かのラーメンを食べ歩き、テレビ番組で2回連続「ラーメン王」になった、「ラーメン評論家、石神秀幸さん」のことである。「らーめん処 潤」(本店=新潟県長岡市)の、東京・池袋東武デパートへの出店をプロデュースし、その店の前には彼の推薦文があり、それを見て入るひともいるといわれる。彼が、監修するベストセラー漫画「ラーメン発見伝」で新潟ラーメンが取り上げられたことで、新潟ラーメンは全国区に浮上したとのことだ。
現在のラーメンブームの構造もわかりやすいのだが、かくて、新潟のローカルラーメンは情報戦のなかで全国化し、出店があいつぎ「激戦地」となった。これはまさに新しい食と情報の関係、地方と全国の関係を象徴しているようなジケンなのだ。
で、そこに並んで、エンテツの見出しは「情報賢く取捨選択を」である。しかし、ウヘー、名前も大きく載り、年齢までデカデカと「60」だ。エンテツの話は、こういうことである。
日本で外食ブームが起きたのは一九七〇年代。高度経済成長で経済が豊かになり、ファミリーレストランに食べにいくのが「ニューファミリー」のレジャーとしてもてはやされた。 カタログ情報誌である「アンアン」「ノンノ」が発刊されたのも七〇年代初め。趣味としての「男の料理」も特集されるようになった。 本来、グルメといわれる人たちは食材や調理法に関する造詣が深く、自宅に人を招き手料理でもてなす。ところが日本では、「男子厨房に入るべからず」と言い、日々の食について語り合う歴史がほとんどなかったのに、経済的に余裕ができた途端、皆が"カタログ"を見て食べ歩きを始めた。日本のグルメブームは「情報化」と深く結び付き、台所の外でスタートしたのが特徴といえる。 八〇−九〇年代は食べ歩き先がイタリア料理、エスニックと移ったが、アイテムが増えただけで、本質は変わらなかった。食品の知識やスーパーで何を買うかなど、「生きるための食の情報」の蓄積は、現代の日本ではむしろ劣化しているのではないか。 ”カタログ”に頼ってきたため、メディアの垂れ流す情報に過剰反応する。農薬を使った野菜はすべて危険だと騒いだり、テレビが「体にいい」食材を特集すればそれを買いに走ったりする。 現代の食卓について論議していると「女性は家庭に戻り、料理を手作りすべきだ」という意見が出がちだが、生活様式自体が昔とは大きく変容している。外食や調理済みの物を買ってくる中食は定着したし、高齢社会が進めば一人暮らしも増えるだろう。第一女性だけが食を担うのでは、問題は解決しない。 年齢、性別を問わず一人ひとりが食についての基本知識や技術を持つことが必要だ。自分に合ったカロリーや栄養は。季節によってホウレンソウの味はどう変わるのか。 食の分野こそ、情報を賢く敢捨選択する「メディアリテラシー」が大切だ。「普通に食べているもの」のレベルが底上げされることが、本当の豊かさなのではないか。 |
ここまでは、プロローグである。このあと1月3日から、第一部「情報化狂騒曲」の連載が始まる。このタイトルは、いかにも情報に翻弄される、産地であると同時に消費地であり、生産者であると同時に消費者である、新潟を想像させるのだが……。「インターネットの急速な普及などで食の情報が交錯する現代。県内の食生活の現場では、何が起きているのか」
1回目、北蒲原郡黒川村の黒毛和牛「村上牛」の畜産団地。一歩間違うと情報風評被害の犠牲になりかねない生産現場である。しかし、同時に自分たちも、安全・安心の情報システムを構築しなくてはならない。情報は両刃の刃なのだ。
で、であるが、その右の面に「定食は世界につながっていた」という新潟医療福祉大学の学生が学食の定食の「産地追跡調査」をしている記事が面白い。ま、トウゼン、外国産がなければ成り立たないのだが、なんと、コメが福島産なのである。それなりの事情はあってのことだが「地産地消」の現実があからさまである。いったん全国化した市場を「地産地消」にもどすには、キレイごとの理念だけではうまくいかない。全国化で調子にのり、調子が悪くなってから地元では、もうできあがったシステムは簡単に変えられないのだ。
さてそれで、「食と情報」の関係の探索は続く。第一部「情報化狂騒曲」の2回目(1月4日)は、越の寒梅の醸造元・石本酒造の焼酎「古酒乙焼酎」である。それがプレミアムがついて販売価格の10−20倍もの値段で取り引きされている。また、航空会社の客室乗務員の口コミから全国区になった「ヤスダヨーグルト」。なぜ、どうして、「有名」になったのか、そこで情報は、どう動いたか。「越の寒梅」と「スッチー」というブランドが、情報のカナメにいる。しかし、いまや、清酒の牙城だったような新潟県まで「焼酎ブーム」なのだ。
3回目(5日)は、「ローカル食」と題して。エンテツもかつて新潟日報の連載コラム「食べればしみじみ故郷」に書いた、新潟のなかでも新潟市のホンノ一部のローカル名物だった「イタリアン」を例に、「ローカル食」が地域を越える動きになる様子。情報が先行し話題になり、ローカル市場は、あっというまに全国市場の情報に翻弄される。
4回目(6日)は、「担い手は女性」。情報化が東京と新潟の同時化を加速し、その動向は女性が中心のマーケット、とくに外食や中食に敏感にあらわれる。
5回目(7日)は、「地産地消」。これも情報が先行し話題になっているが、どこもやりやすいところからやっているだけで広がりの見えない、給食に地元産モノという取り組みの実態。「産」と「消」はなかなか噛み合わない、その問題点をきちんと指摘している。「地元だから安心、と短絡的に考えてはいけない」
6回目(8日)は、「自分を信じ」と情報を活用し自ら作り考え消費する、新しい消費者の動向である。
これで、第一部は終わりらしい。最後の結びは、こうである。……情報化の狂騒曲に躍らされるのではなく「おいしく、賢い」食生活に役立てるための取り組みが求められている。
新潟日報を置いてある図書館もありますから、どうかご覧ください。こういうことは、どこの地方紙でもやれるわけじゃないだろうけど、地方から全国や全国的な課題を考えるのは、とても大事で必要なことだと思います。それに「情報化社会」は、中央から杓子定規に見ているだけでは、なかなかわかりにくい。こういう地方の現場の報道を東京や都会で簡単に見られる仕組みがほしいね。第3部、第4部と続く予定らしいが、あとが楽しみだ。
なおこの企画は、BSN新潟放送テレビとの共同企画のため、昨年末には新聞の取材のほかに、テレビの取材班が狭いわがアパートに来て収録をしていった。1月の5日から7日のあいだのニュースワイドで放映されたらしい。
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