<伊勢虎>開業記

いつかわからないけど、閉店しました。残念、続かなかったか?(07年6月1日)

その後、伊勢虎は無事に営業を続けているであろうか?


若者は飲食店経営をめざす……か。

消える食堂もあれば生まれる食堂もある。

近年、若いひと、といっても20歳後半30歳前後のひとが多いのだが、まったくのシロウトで飲食店を開業するケースを見聞きする機会がふえた。そこには、いろいろ興味あることが多く、以前から、とくに「取材」ということではなくて、なんとなく気が向くままに出かけていき、気が向くままのオシャベリをして、応援激励感想批評のルポをしてみたいと思っていた。

うまいぐあいに、おれが気に入ってふらふらしている北区王子地区で、今年の3月に開業した食堂と出合った。ここならフラリと行くのにも便利だし、ときたま気ままに訪ねては書いてみたい。

「大衆自然食堂」を名のる[伊勢虎]の開業記、である。

(2002年10月21日記)

初めての訪問。2002年10月19日。

伊勢虎は、東京都北区滝野川1-59-4、都電飛鳥山駅のまん前にある。



写真上、左はしの、蔓がからまる建物。古い木造。都電の向こうに見えるのは、飛鳥山公園の林。このへんは関東台地の突端で起伏に富んでるし水の豊かなところで滝の名所もある。飛鳥山もそうだが、王子稲荷など江戸期から話題の旧跡も多い。散歩によいところだ。



写真上、飛鳥山駅ホームから見た伊勢虎。4人がけテーブル一台に2人がけテーブル一台。手作りの、狭いが落ち着く。椅子に腰かけていると、たくさんの植木越しに都電がトコトコ走るのが見えて、1960年代ぐらいで歴史がとまった感じの借景、よいムード。

その都電利用でもよいが、おれは京浜東北線王子駅の中央口西側の飛鳥山公園側に出て、古い木造飲食長屋と飛鳥山公園の木に囲まれたトンネルのような、さくら新道を通り抜け、階段を上り飛鳥山公園を突っ切り、本郷通りの歩道橋を渡るという散歩コースを選ぶ。あるいは、南口を出ると商店街や車道などなく、いきなり駅と飛鳥山公園を結ぶ跨線橋へ出られるので、このコースも捨てがたい。徒歩約10分。

飛鳥山駅周辺は、かつては「競走横丁」と呼ばれる路地があって大変にぎわったところ。古い小さな家屋に小商いの店が、その面影をとどめている。だが、こういう歴史のある地域は、いまやひっそりとした「待ち」の雰囲気であり、駅に近い割には人通りも少なく、商売には好立地とはいえない。そこに開業した。なぜ、ここに? ま、予算の関係もあるのだろうけど。

伊勢虎主人は30歳ぐらい。両親とも東京生まれ。昔のヒッピーといった様子だが、どことなく清潔感がただよい明るく外向的なのが、ヒッピーとちがう印象である。「生まれ育ちが巣鴨で、この都電はよく利用していました、それでこのへんが気に入っていたものだから」。巣鴨と飛鳥山は都電でつながっていて、どちらも似たような庶民的な土地柄だ。

会社勤めも飲食店の経験もなく始めた。生業的な飲食店の歴史のなかでは、めずらしいことではないが近年ふえたように思う。長びく不況も関係しているだろうが、自営で自立したいという若い欲求も強いようだ。そこには、どうせ苦労するなら自分のやりたいことでという選択のほかに、「自然な生き方」への憧れや欲求がある。伊勢虎主人は、まさにそのケースらしい。

考え方が「若い」「甘い」というひとがいるかもしれないが、チャレンジとは、そういうものではないかと思う。内装は全部自分でやった、壁に和紙をはり、テーブルは拾ってきて布をかぶせ。自作自演の生活への強い意欲。可能性を賭ける。

このようなひとたちが活性化をもたらすのだ。街は、このようなひとたちにこそチャンスを与えるべきではないだろうか。もし同じような仲間が、この周辺に集まってくれば、間違いなく街は元気になるだろう。そうなって欲しい。

そういうわけで、とにかく伊勢虎は「大衆自然食堂」を看板にしている。

「麻」にこっている。唯一のごはん料理、縄文カレー(700円)は麻を使ったカレー、ビールも麻ビール(新潟県月潟村の地ビール[麻物語])、付だしも麻の実。それからカプチーノだって、豆乳を使う。名刺には「洗剤は使っていません」とある。




うーむ、チト観念的すぎやしないかと思うが。ま、これから、客と一緒に店をどう作っていくかだろうか。玄米入りごはんの縄文カレーは、タマネギを十分炒め、麻を使った独特の味わい。スパイスの刺激がおだやかなやさしい風味。麻は粉末にしてこしてあるが、舌に粉っぽさが残る。まだ材料のお互いの味が十分なごんでいないようだ。

近所の知的なおばあさんが、おみやげにブドウを持って来て、カプチーノを飲んでのんびりオシャベリ。外を、都電がトコトコ。万事がスローでスモールでローカルで、まさに、当サイトの編集方針みたいであります。手作りの雰囲気というのはくつろげますね。

みなさんも、ぜひ足を運んで、伊勢虎を理解し遠慮なく意見をいいながら盛り立てて欲しい。

ああ、ところで、なぜ[伊勢虎]という名前なの?
それは、祖父の祖父ぐらいの先祖が、伊勢虎という名前で料理屋をしていたので、その名前を復活させたいと思って。
伊勢虎、聞いたことがあると思ったが、そのときは思い出せなかった。池波正太郎の小説に登場する、目黒不動前に実在した料理屋だ。まさか、その子孫? こんど詳しく聞いてみよう。

定休日は月曜日。営業時間は朝9時から夜8時。

未来のために、「若い未熟な店」も応援しよう。

(2002年10月21日記)


ヨッ大衆食堂新しい鼓動