かめさん食堂
カマドで薪炊きのめしですっかり有名になったが、
かわらぬボロの味わいでやっている。それに、あのストーブが…… 


事例の巻 少女の食堂初体験(『大衆食堂の研究』から)


一九九四年一月三〇日、日曜日。東京FMの昼の『わたなべまりの出光エナジーステーション』という番組だった。投書が読み上げられた。それが少女の食堂初体験だった。

ラジオ放送なんて何かをしながら聞いている。「……一ぜんめしやのような食堂……」という言葉が聞こえて、おれは突然緊張し傾聴したのだが、あっというまに終わってしまった。興味ある言葉が耳に残って、気になってしかたない。しばらくして東京FMに電話して、スタッフの方に何度かめんどうをかけ、投書の原文を教えていただいた。

いま、それを、まだ食堂にひとりで入れないでいる男、もうすっかり擦り切れるほど食堂を利用し新鮮感覚麻痺に陥ったひとたち、そして食堂のおじさんおばさんのために、ここに公表いたします。

原文である。電話で聞きながら書き取ったものだから、文字づかいはおれのものだ。
東京FMのスタッフの親切には本当に感謝し、かさねてお礼申し上げます。

  このまえ、たまたま平日に、わたしのかよっている高校だけお休みという日があったので、ふらふらとすいている町中に買い物でもしようとでかけたんです。

 かっこういいスカートとか見つけて、ルンルンで買い物をしていたんだけど、朝ごはんをおそく食べたんで、三時とかへんな時間におなかがすいてきてしまいました。

 みわたすと、ちょうどそこに、ポツンと、いかにも一ぜんめしやという感じの食堂がありました。ちょっと入りづらいんでどうしようかなと迷ったんだけど、えいっ、て入っちゃったんですよ。

 なかには大きなストーブがデンとおいてあって、ぽかぽかあったかくて、二人おばちゃんがニコニコしてる。中ではおじちゃんが料理をつくっていて。ホノボノしていました。

 オムライスとお味噌汁を食べたんだけど、味も最高においしかったです。

 なんか知らない世界を知った気分でドキドキしちゃいました。
 勇気をだしてはいってみるもんですね。また行ってみようと思います。


じつは、この投書そのままのような食堂がある
かめさん食堂かめさん食堂ストーブ

埼玉県朝霞市本町2−1−2
参考リンク

「いかにも一ぜんめしやという感じの食堂」「ちょっと入りづらい」「なかには大きなストーブがデンとおいてあって」ときどき、ここの「おばちゃん」とどこかのおばちゃんが「ニコニコ」世間話をしていて、「中ではおじちゃんが料理をつくっていて」、「ホノボノ」で、オムライスも味噌汁もうまいところなのだ。

埼玉県朝霞市、といっても東京・池袋から東武東上線で20分ぐらいの朝霞駅から歩いて数分のところ。まわりは、ガンガン再開発中であるが、ポツンと、この姿のまま営業している。

まったく縁とは不思議なもので、『大衆食堂の研究』の企画は、おれがここでめしをくっているときに発想を得たのだ。『大衆食堂の研究』は、サブタイトルが「東京ジャンクライフ」であり東京都内の食堂が中心で、この食堂のことはあまり詳しく書いてない。うしろの大衆食堂一覧にあるのと、本文中に店名はないが、こう書かれているのは、かめさん食堂のことだ。

 サバ煮と、竹輪、ニンジン、コンニャクなどが入っている野菜煮のようなものをえらんで、どんぶりめし一杯、味噌汁、お新香。これで六〇〇円だ。小皿に盛りわけられた十数種類のおかずが並ぶ、デパートのショーケースのような、だがずっと暗いガラスケースには、やたらサンマが多かったぜ。
 一九九三年の秋だった。

がしかし、本が出版されてから関わった『週刊プレイボーイ』『散歩の達人』ほか雑誌の記事には必ずここが登場している。そして、かめさん食堂は、いまだにカマドで薪をつかって飯をたいていたりで話題性があるもんだから、テレビに登場したりで、すっかり有名になった。

昨年秋には、地元の中学校の新聞部が取材に来て、タブロイド版2ページを堂々と飾って、いまや子供も大人も知っている「朝霞名所」である。とはいえ、おじちゃんとおばちゃんは、あいかわらず、おなじ調子でやっている。この写真のまんま。たしか、まもなく開業 50年になるはずだ。

(2001年4月記)

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