ハム勝つキック42男さんのレポート

東京蒲田<石川屋食堂>ほか



新宿おもいで横丁<穂波>

(2002年8月21日掲載)

先日、仕事で西武新宿線を利用する機会があり、新宿に着いたのが午後5時。そのまま帰宅、なーんて野暮なことはせず、せっかくなのでおもいで(ション○○)横丁へ。いわずと知れた酒場・大衆食堂の密集した激戦区、「つるかめ食堂」はつとに有名ですが、迷わずに好みの「食堂 穂波」へ直行。

界隈では一般的なほぼ正方形の店内。その三辺の内側に、丸椅子と人一人が通れる幅を残してコノ字型カウンター。一段高くなった目の高さにガラスケースが造られていて、四角いステンレスバットが並び惣菜が盛られている。

壁には品書き短冊びっしり、単品ものは50円から400円ぐらい。惣菜ものは、ほぼすべてを網羅するラインナップ。飯を喰う、酒を呑む、そのこと以外の余分なものを一切取り去った店内は、狭いがすがすがしいまでの潔さがあり、心安らぐ場を形成しています。

酒(神鷹ビン徳利)350円とポテトサラダ200円、白菜漬100円を注文。昼食時や午後7時以降ではカウンターがほぼ埋まり、午後9時頃は仕事前の流しギタリストや常連酔客が集い、なかなかヘビーな雰囲気が充満していますが、今はまだ夕方の5時過ぎ、店内は食事をとる客がちらほらいるのみで、ゆっくり酒を呑むのに最適な時間帯。

てんぷら盛り合わせ400円は、立ち食いそば屋で出されるような揚げ置き天ぷら(かき揚げ、野菜天)だが、暖めた天つゆがたっぷりとかけられ、ちょっとした天抜き(天ぷらそばの台抜き)を食べる気分で美味。酒もすすみ、さあ腹が減った。鮭焼き400円(皮までぱりぱり)と大根おろし100円で飯と味噌汁、これ以上の悦楽はこの際思い浮かびません。

 飯をかっ込んでいる間、隣に座った常連客とおぼしき60代男性が「ご飯、味噌汁」と注文し、立ち上がってガラスケースを見回して「これとあれ」。この店では「○○定食」という設定もあるが、これがもっとも自然で当たり前な注文方法で、惣菜を直接丼メシにのっけてもらうのも可。

何故だかこの時、4年前に行ったシンガポールの飲食形態を思い出してしまった。シンガポールでは外食産業が極めて発達し、自宅で調理するより安価でかつ豊富なメニューが揃うため、家族連れ、会社帰りを問わず外食が基本であるそうな。ホーカーズと呼ばれる屋台村(とういうより、さまざまな簡易飲食店が巨大なサーカス小屋の中に集められたような、それ全体が大衆食堂のような空間)がいたるところに見られる。ほとんどの人が皿にまずライスを盛ってもらい、ガラスケース内の惣菜をあれこれ指差し注文してライスの周りに並べ、会計を済ませ相席のテーブルで食べる。まさしくおもいで横丁の飲食形態そのもの。

話はそれるが、現地ではまってしまったのがNasi Lemak(ナシレマ)と呼ばれる一皿完結料理。インドネシア語なので渡来・変遷したものなのであろうが、当のインドネシアでは見当たらないという不思議な一品。小魚(鯵)のから揚げ、目玉焼き(フライドエッグ)、渋皮つき炒りピーナッツ、スライスきゅうりにインドネシアの辛いサンバルソースが添えられ、ライスの周りに雑然と並べられる。極めつきはなんと、ココナッツミルクで炊いた甘いココナッツライスである。想像するだけで極辛甘、パリポリぐちゃぐちゃ、相当な違和感であるがまさにそのとおり。滞在中はほとんど毎日食べるほど病みつきで、日本で新大久保界隈のマレーシア・シンガポール料理店で探しているのだが、残念ながらいまだ出会えず(どなたかご存知ならばお知らせください)。

 穂波の店員さんが中国人であることもアジアンテイストな雰囲気に一役買っていることも事実ですが、アジア民族で、米食人種であることのシアワセを妙ーに感じる一夜でした。

エンテツから=この[穂波]は以前[新星食堂]という名前だったところです。おれが上京後、もっともよく利用した食堂の一つです。


<石川屋食堂><大清軒>

(2002年8月7日掲載)

各大衆食堂店には、必ずその基礎となるべき料理ジャンルが存在するように感じます。代々続く店では、先代が中華であったり、はたまた蕎麦屋、洋食屋であったのが、住民や客のニーズによって時代とともに淘汰・変遷を経て、現在の営業形態に落ち着いた、なんてのがあるはずです。でも、「蕎麦屋がしょうが焼き定食なんて作れるかえ!」、「ラーメン一本で勝負するのが夢だった。なんで俺がカツカレーなんて・・・」、なーんて思っていても、決して卑屈な態度は微塵も感じさせず、日々うまいものを作るに精進した結果が、現在の繁盛につながっていると店主さんたちは信じているでしょう。そんなお店をご紹介します。

<石川屋食堂>
JR蒲田駅東口徒歩3分観音開きの、昔の床屋のような大きな真鍮の取っ手のついたガラス格子は朱塗りで、看板には「中華・洋食・和食」と大胆に書かれているが、いかにも中華食堂出身のにおいがプンプン。パイプビニル椅子のレトロな店内に、黄色いメニュー短冊がびっしり。酒類はビール、酎ハイ、日本酒、紹興酒その他ノンジャンル。ここの「野菜炒め」450円は旨過ぎる。もちろん餃子もチャーハンも安心美味。腹いっぱい食べて呑んで2000円!いずれここのチキンライスや定食にもチャレンジ。

<大清軒>
大井町線中延駅徒歩3分 とおりに面したガラス格子戸に中華の定番、白地に朱書きの大清軒の暖簾。いかにも中華屋、でも鯖味噌煮定食から焼きたらこ、ウインナー炒め、純然たる大衆食堂。特にここのハムフライは都内で3本の指に入ります。ウスターソースだぶだぶかけて飯のおかずにするもよし。忘れずにポテトサラダをご注文。酒は例によってなんでもござれ(注:安酒のみ)。親父、息子、奥さんの完全家内経営。奥さんが酔っ払いながら客あしらいするのもご愛嬌です。


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