特別連続報道番組 文句あるか!の[やよい食堂] 03年1月15日記 |
第2夜の1 愛宕駅に下り立つ |
やよい食堂は千葉県野田市の東武野田線愛宕駅から徒歩10分ばかりのところにある。と、ここで、ああ、あのキッコーマンの野田市かと気がつくひとは、まだマシである。にしても、その野田市がどのへんにあるか、見当つかないひとが多いだろう。およそ江戸っ子を気どり、江戸の味を吹聴するものが、ここ野田市を知らないとしたら……、そういうやつが多いだろうなあ。 東京ラーメンを語るなら銚子と野田を知らなくてはいかんでよ、ってなぐらいなものだ。だけど東京人は、もっとも世間を知らない。たとえば千葉や埼玉の人間は、自分の土地のほかに東京のことを知っている、だが東京の人間は自分のところを知っているぐらいで、千葉や埼玉のことを知らない、そして千葉や埼玉をばかにするのである。笑止なことである。あっはっはっ。 いきなりそれた。つまり、おれのボロアパートがあるさいたま市浦和地区あたりからだと、直線距離で東北東へ20キロほどのところに、やよい食堂は位置するはずだ。しかし、おれが電車を利用してそこへ行くには、京浜東北線に乗って北へ、大宮駅で東武野田線に乗り換え、約東へ向かう、そして東武野田線は埼玉県から千葉県にはいったあたりで約南へくだる。関東平野のドまんなかである。 関東平野のドまんなか。あなたは知っているだろうか、想像つくだろうか。このあたりを知らないひとは、ぜひ一度行って見ることをおすすめしたい。大阪京都あたりのひとは、どこまでも続く平原に驚き、おなじ日本かと思うそうだ。東京しか知らないひともおなじだろう。そのように日本のことを知らないひとが多い。また話がそれた。が、しかし、この関東の平原を理解して、やよい食堂のめしを理解できるのだ。大衆食堂は地域の生き物なのだから。 電車は広い平原を走る。平原のなかに街がある。ところどころ荒涼としていて、まだまだ日本は土地があまっていると思う。かなり寒い日だった、電車の暖房は、ほとんどきかない。「関東のからっ風」が、電車のなかでも身にしみる。しかし乗客のみなさんは、それが当然のように、まるで平気な顔をしている。おなじ日本人とは思えない。 その寒さに平気なジモティ乗客のなかの2人連れ。おれの隣のおばさん2人は、ひとりは地元のお医者さんのたぐい非労働的名士階級、ひとりはやはり名士階級のようであるが、見るからに手があれ日焼けが顔の皮膚をきざんだ農家の主婦とおぼしきが、地元の名士主催の押し付けコンサートやらなんやらの話からレストランの話になり、ひとりがパンフをだした。そして何十何階のなんたらというレストランがいいという。気になって注視していると、そのパンフ、場所は、新築なった丸ビルなのだ。あの東京駅前のビル、あそこへ行くと、見るからにおのぼりさんの、田舎者で親しみのわく風情のおばさんたちが徒党を組んでうろうろしているわけだが、なるほどこのへんの力強い田舎者だったのかと、なっとくしているうちに、電車は周辺に人家もない駅をすぎて、めざす愛宕駅についたのだった。約1時間半。 |
愛宕駅、下り立った瞬間から、昭和30年40年代オールディーズだった。おい、おれは20歳代にもどったぜ。ほら駅前には不二家にペコちゃん、そして中村屋。この高度成長昭和駅前を象徴する二軒を押しつぶすように、高度成長昭和の欲望を象徴する、この閑散とした駅前には、まったく不要に見える歩道橋。そうだ、道路に自動車その上に歩道橋が進歩発展の町であるかのような昭和の時代があった。そのころ大衆食堂は、もっとも勢いがあった。その景色がそのまま駅前にある、これはやよい食堂は期待できそうだと感じた。 |