熊本県三角町、高岡さんのミカン



(2002年10月28日版)

年末になると、熊本県三角町の高岡オレンジ園から、おいしいミカンができましたよーと便りが届く。

1990年ごろに、熊本県蘇陽町で高岡廣美さんと出会った。蘇陽は宮崎県境の山中だが、三角は反対の天草の海を臨む宇土半島の先端にある。高岡さんはおれが滞在していた蘇陽の家の主人を訪ねてきたのだった。

そのとき高岡さんは、まったく農薬や化学肥料を使わないミカンをつくっていたのだが、見た目が悪いため農協で扱ってくれなくて困り果てて、相談に来たのだった。それから高岡さんのミカンを売るお手伝いをするようになり、たくさんのひとにすすめ、たくさんのひとに喜ばれ、高岡さんとのお付き合いは、いまも続いている。

高岡さんのミカン畑も見せてもらった。一目で、それとわかる、生き生きとした木の畑だった。「無農薬有機栽培」は「人気」であるが、簡単にできることではない。はっきり言えば、怪しいものも大分ある。病害虫を防ぐのにも、もう大変なめんどうをみなくてはならない。めんどうだから一回ぐらい農薬使っちゃえなんてのも少なくない。

高岡さんはそんなことはしない。誠実である。苦労して、このミカンをつくっている。それは何度も会い、畑を見て勉強させてもらったから、わかる。

見た目の悪さが味と安全の保障で、外の皮ごと食べられるし、うまいミカンだ。おれは、このミカンを食べたとき、遠い小さいころ食べたミカンの「甘露」という味を思い出した。すでに甘露という言葉は死語にひとしいが、その言葉を思い出せるほど、うまいミカンなのである。レモンやパール柑やデコポンなど、まったくイヤになるぐらい味がよい。

思えばこの数十年間というのは、見た目だけで物事を判断し、大急ぎで新しい小ぎれいなイメージだけを追いかけ、古いものを汚い時代遅れといって、そこに何があるかも考えずに払拭してきたのだった。

写真は昨年の「おまかせパック」で、ミカンのほかにレモンなど、いろいろなオレンジが入っている。昨年は、とくにできがよかった。高岡さんのような栽培法では、バラツキがでるのは当然なのだが、今年もよいミカンであってほしい。

高岡オレンジ園  熊本県宇土郡三角町大字里浦731
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