「さんが焼き」と
「銚子いわしのハンバーグ」
のあいだ

(03年8月21日記)

千葉県地方、あるいは房総地方といったほうがよいかも知れない。<さんが焼き>という料理がある。基本は、アジかイワシかサンマをたたいたものと刻みネギと味噌を混ぜ合わせる。ショウガやオオバを入れたりすると、さらによい。それを生のまま食べるなら、<なめろう>という。その<なめろう>を焼くと<さんが焼き>だ。

焼くにあたっては、房総の観光地あたりの食堂では、アワビの貝殻に詰め入れて焼いたものを出す。が、アワビの貝殻で焼かなくてはならないということではない。とにかく、うまいうまい。生で食べる<なめろう>とは、また違った風味を楽しめる。<なめろう>も<さんが焼き>も簡単につくれるからオススメだ。おれのウチには、アワビの貝殻はないから、<さんが焼き>のときはホタテの貝殻でやる。



写真上、今年の2月撮影。これが<さんが焼き>である。大半たべてしまってから、そうだ写真を撮っておこうと気づいた。いつでも、食べ物が出てくると、まずガツガツ食べてしまうので、こういう有様の写真が多くなる。これは房総白浜の「三愛」という食堂のものだ。三愛では、2回食べた。1回行って気に入ると、また行ってしまう。こうやって書きながら思い出し、すでに口のなかにヨダレがたまっている。

白浜漁港、左端に三愛食堂が見える

この<さんが焼き>は、魚肉をミンチ状にして調味成形し焼くものだが、誰も「ハンバーグ」とはいわない。もちろん、さんが焼きのご先祖様はハンバーグで本場はドイツのハンブルグだ、なーんて誰もいわない。

さてそれで、ウチの近所のスーパーへ行くと「銚子いわしのハンバーグ」なる製品が売っている。これは「銚子いわし」となっているが、兵庫県篠山市の食品メーカー製である。「お魚屋さんが作った 銚子いわしのハンバーグ」。こちらは、やはり魚肉をミンチ状にして調味成形したものであり、焼いて食べるのだが、「ハンバーグ」である。



裏の表示の原材料名……魚肉(いわし、たら)、たまねぎ、豚脂、粒状大豆たん白、ねぎ、パン粉、でん粉(ばれいしょ)、植物油脂、粉末状大豆たん白、砂糖、しょうゆ、食塩、しょうが、醗酵調味料、香辛料、調味料(アミノ酸等)、キシロース、(その他 乳由来原料を含む)。ま、工業製品化するとなると、いろいろな添加物が必要になる。

それはともかく、これは料理としては、<なめろう>や<さんが焼き>の系統なのか、それともハンバーグの系統なのか。あるいは、ほかの何かの系統なのか。別の言い方をすれば、<銚子いわしのハンバーグ>の「本物」は、ファミレスなどで食べるハンバーグなのか、それとも房総が「本場」の<なめろう>や<さんが焼き>なのか。あるいは、ほかに「本場」「本物」が存在するのか。

このように同じ種類の料理なのに名前は違うもの、その反対に名前からすれば同じ種類の料理に思われるがじつは違う料理である場合など、いろいろある。

いや、なにがいいたいかというと、食べ物や料理において、「本物」「本場」崇拝論ほどツマラナイ意味のないことはないという例なのだ。つくり方が違えば違う種類の料理であり、料理は生活のなかで生きている。その姿をとらえることは必要だが、「本物」「本場」といった観念は、カレーライスの歴史の混乱が示すように、それをかえって邪魔するだけだ。それに料理は、そのときどきを、うまく食べることが大切なのさ。

<なめろう>も<さんが焼き>も簡単につくれる。うまい、酒のツマミにもいいねえ。


大衆食的