東京浅草 ピーター

下町ハイカラ文化の味わい

ただの民家のピーター「週刊朝日」2000年1月14日号のグラビア特集「21世紀に残したいB級グルメ カレー編」で、おれはここのカレーライスを推薦した。三店推薦できたのだが、ほかには東中野食堂のカレーライスである。

おかしいことに、といっても、おれがおかしいと思っただけかもしれないが。おれが推薦したカレーライスはまともなB級の値段だったが、ほかにはとてもカレーライスにしてはB級とは思えない値段のものがズラリ並んだ。ちなみに、美川憲一は1200円、宍戸開は1180円、大槻ケンジは1200円、甘粕りり子は3500円! 関口宏1600円、そして圧倒的に多かったのが判で押したように新宿中村屋の1300円の「インドカリー」である。

これらは、カレーライスといえないことはないが、わが日本の庶民が愛し育ててきたカレーライスとはかなり異質なものである。自分たちの商売をやりやすくするために、カレーライスを僭称しているだけで、そしてイザとなれば日本のカレーライスなんぞはニセモノとぬかす無礼なものではないかと思われるのだが、とにかくそのようなものまでB級のカレーライスと呼ばれるようになった。

という話はともかく、浅草という地は、古都であり戦前のハイカラ文化をリードしてきた街である。江戸と近代の文化が混ざり合うところだった。その象徴としてカレーライスやハヤシライスやカツ丼などの「洋食系」があった。といえるだろう。ピーターのカレーライスとハヤシライスも、そういう、味わいを引き継いでいる。

ピーターは浅草生まれのママさんが一人でやっている喫茶店だ。カレーライスとハヤシライスとおでんがウリであり、夏にはカキ氷もある。地域のひとたちが来ては食べながらオシャベリしていく。ときどき、正しく着物を着て日本髪に結い上げたキレイドコロのオバサンやオネエサンがコーヒーを飲んでいる姿を見るのだが、日本文化としてのハイカラ文化の深遠にふれた気分になれる。

なんといっても店内の、ハイカラ文化はなやかなりしころの浅草を彷彿とさせる「壁画」が見ものだ。紙芝居作家として一躍有名になった加太こうじさんが生前この店を愛して描いたものである。

ま、とにかく行ってみてよ。

東京都台東区浅草3‐13‐1 ピーター カレーライス550円。これで、浅草はきまり。




加太こうじさんの壁画には、エノケン、アラカン、オミズといった、舞台や映画の浅草の人気者がずらり。







週刊朝日に掲載された記事を使って、常連の漫画家の方がポスターをつくってくれた。このへんにも客と店の交流の深さを感じる。

ちなみにおれの推薦文は、こうだ。「壁いっぱいに描かれた加太こうじさんの絵とともに、ココのカレーとハヤシは20世紀浅草のひとつの文化でしょう」









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