<おかめ>の情景
上野駅改装工事のため退去を命じられ2002年11月18日、閉店しました。
東京・台東区JR上野駅地下、地下鉄銀座線改札口前。
(1997年8月7日撮影、2002年5月10日記)
この店は現在も、この状態で営業している。
むかしの駅前食堂がほとんどなくなったいま、この[おかめ]などは、その風俗を知る貴重な手がかりである。
3年前ぐらいまでは、入口左側のビールが積んであるところに主人が腰をかけ通行人を見ている光景があった。まるでKFCのカーネルサンダースさんみたいという声もあったが、あんなに格好よくないという声もあった。その主人は2年ほど前に亡くなった。
店内には、まともに買えば一つ百万円はするといわれる縁起物の特大の熊手が飾ってある。毎年浅草の酉の市で数十万円で買っていると、おかみさんが言った。
写真では見えないが、この熊手の飾のあいだに、無数の千円札がはさんだままになっている。場所柄、浅草の場外馬券売り場へ行く人たちが、多く立ち寄る。その彼らが、そこへ行く前に、ここで腹ごしらえなり一杯やって、願をかける意味で千円札をはさんだり、あるいは帰りにアタッタからと千円札をはさむ。
こういう食堂を、「馬券をやるようなひとたちが常連」と、軽蔑するひともいる。そういうひとは、その程度のひとだということだ。
熊手の左横にビールが積んであるが、サッポロ、キリン、アサヒの数種があって、おかみさんは常連の好みを覚えている。
たまたまブラジル人とフィリピン人の家族がいて、カツ丼をフォークで食べていた。「うまいか」と訊ねたら、大きく笑って「うまい」と言った。近頃は外国人の客がふえている。
ズラリ短冊メニュー。まねき猫に福助、その下に、客が書いていった色紙が並んでいる。
下の写真、変色した色紙の一枚には「當店は客の気持をやわらげる憩の店なり 一常連」とあった。
さほど「上質」な料理ではないが、いい気楽な食事ができる店なのである。
上野駅地下食堂街の消滅