榊正昭さんの
「もうからんや」?探索記


(03年1月4日記)

榊正昭さんから、つぎのようなメールを頂いたのは、去年02年の1月19日だった。


さっそくですが、遠藤さんに質問があります。
実は30数年前、池袋西口に「もうからんや」という大衆食堂がありました。ご飯と味噌汁は安かったのですが、ガラスケースに並んだおかずは結構高く、どこがもうからんやだ・・・と思ったりしました。こんな店はいくつもあり、いちいちどうなったかなど誰も気にしていないと思いますが、私はなぜか気になっています。

食べ物にはなぜかそういう心に引っかかることが多いようです。例えば、子どもの頃、停電(!)の中で蝋燭の光で食べたシャケのフライが忘れられない、とか。

私はふだん食べ物の好き嫌い、うまいまずいはほとんどいいません。そういう教育を受けたということもありますが、実は鈍感なだけで、以前女房が作り置いてくれた納豆チャーハン「うまかったよ!」と言ったら、「えッ食べたの!」実はしまい忘れた、ただのチャーハンだったのです。それでお腹を壊さない鈍感な私ですが、なぜ「もうからんや」にこだわるのか・・・・自分でもわかりません。

そして去る12月16日、榊正昭さんから、つぎのようなメールを頂いた。

実は一昨日(12月14日)池袋で1時間ばかり時間が空いたので、思い立って「もうからん屋」探索に行ってきました。

北口から西へ。そのあたり面影はなく、とにかく郵便局前の交差点をわたり、さらに西へ。道が狭くなり、池袋仲通商店街に入るとなんとなく昔の面影。しかしそう何回も行ったわけではないので、具体的には何も思いあたらない。ふと見ると古本屋さん。昔はよく見かけた小さな古本屋。青林堂書店。店番のおばさんに聞いてみました。

「ああ、確かにありました。名前は忘れたけど、もうからんや?そんなんじゃなかった。もうだいぶ前にやめて、ホテルになっている」

100メートルばかり戻ったところに、ホテルエーゲ海がありました。そのならびに金属材料の問屋さんのビルがあり、私と同年輩の主人とおぼしき人がトラックに荷物を積んでいたので聞いてみると、

「確かに20年くらい前まであったな。もうからんや?いや違う、なんてったかな・・・夫婦でやってた。よく食べに行った。
(ご飯と味噌汁が出てきて、後は自分で好きなおかずを選んで食べる方式でしたね)
そうそう家庭料理みたいなもんだったな。その夫婦?さあどうしたかな。」

ホテルの向かいのコンビニの前で掃除をしていたおばあさんに聞いたところ、覚えていました。

「鎌田さんといって今も近所に住んでますよ。店の名前?皆様食堂。」

ということで、「もうからんや」は私の勘違いかも知れません。(ただ、変わった名前なので、他にそういう名前の店があったのかも知れません。鎌田夫妻に会って確かめればわかると思います。)

尚、古本屋青林堂書店ですが、ご主人が昨年なくなり、奥さんは商売のことはわからないので、来年春には廃業する。ということで、1000円と300円の本を買ったら、300円はまけてくれました。私は本をあまり読むほうではないので、わかりませんが、昭和40年代の古本屋さんそのままという感じで、昭和のはじめから30年代までの本が目につきました。特色はあまりありませんが、国文学、民俗学の本が目立つ程度でした。文春や文学界の三島由紀夫特集がどさり、そして相対会の本が手の届かないところにありました。

とりあえず、ご報告まで。

はたして「もうからんや」は「皆様食堂」のことなのか、それとも……。なにはともあれ、このように記憶に残る、「心にひっかかる」料理や食堂や街を、今年も語り継ぎたい。ところで「相対会」なるものをご存知の、教養ある方は、どれぐらいいるかな?

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