なんと、桑の実が

(2002年9月6日版)

桑の実この写真は、ほぼ実物大

チト古い話になる。
去る6月某日、長野群馬県境の「秘湯」で有名な高峰温泉に1泊した。

ここはフツーの温泉旅館とちがって「山の宿」であり、簡素で気取りがない。そこがよいのだが、標高2000メートルの一軒宿、温泉つき山小屋が時代と共に発展したようなもので、温泉も眺めも素晴らしく、サービスも食事も創意工夫にあふれていて、満足度の高い宿だ。

とくに食事や料理に関心あるものにとっては、じつに「あるものをおいしく」に徹していて、料理の洗練とは何かを考えるうえで、非常に参考になる。

で、夕食のデザートといったポジションで登場したのが、写真の桑の実で、思わず歓声をあげてしまった。「懐かしい」としか言いようがない。40数年ぶり、故郷を出て以来、ひさしぶりにゆっくりしみじみ見て味わった。

かつては、この実を知らないひとの方が少なかったであろう。いまでは、どうだろうか。知っているひとの方が少ないのではないか。

おれがガキの頃は、これを桑の木のところで食べるだけ食べ、さらに家に持って帰って食べようと、ポケットというポケットにつめこんで、家に着くと実がつぶれて衣服の色が赤紫色に変わっていたということがよくあった。

もちろんタダでとっていいものであり、その意味では、まっとうな食品とみなされていなかったともいえる。だが、その季節が近づくとじっとしてられないほど、うまいのである。

これを夕食につけた高峰温泉の方のアイデアに驚嘆、感謝。

口の中で噛むとはじける食感と甘酸っぱいうまい汁を、子供の頃の思い出と共に楽しんだ。

もちろん、帰りは、小諸の揚羽屋に寄りました。


メシゴトグラフィティ