気まぐれ研究

魚谷常吉と「貧乏食通論」 2001年9月16日

 「貧乏食通」という言葉は、魚谷常吉の『味覚法楽』から思いついた。
 歴史に残る高名な料理人で、庶民の食を理解し、したがって料理人の高級料理を理解したひとは少ない。魚谷常吉は、そのひとりである。そう断定できるのは、『味覚法楽』の、この著述による。

第三が貧乏人の食通で、これは高価なものには手が届かないから、安価なものに食味を求める連中で、時には自ら包丁をとる厄介な者さえある。ところがこの連中が立派な美味、珍味、滋味を発見する場合が多いのだから不思議である。この連中は、雑物にその真味を求め、人の口にしないものに食味を探し、しかも、それをいかせて使い、あるいは使わす手で、現今高等料理に使われるものは、ほとんど全部これらの人々の発見、工夫したものであるといってもよい。

……『味覚法楽』魚谷常吉著、平野雅章編(中公文庫)より
 とくに、「現今高等料理に使われるものは、ほとんど全部これらの人々の発見、工夫したものであるといってもよい」というところを、よく記憶にとどめておこう。
 庶民の貧乏食通が発見や工夫した料理に、ちょっと手を加えたぐらいで、自分の創造のごとく書いている著名な料理人もいる。さらには、その庶民の料理をニセモノ呼ばわりする料理人もいる。
 魚谷常吉は明治27年に生まれ、この書は、昭和11年(1936)11月に出版された。近年の、料理人の貧乏食通に対する傲慢な態度と、ただただそれにヘイコラ従う「グルメ」とやらは、あきらかに、このような歴史をゆがめるものだ。

 本日の研究は、ここまで。



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