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書きました…『四季の味』2013年春号「快食快味、米のめし」

ブログの2013/04/07「『四季の味』春号に初寄稿「快食快味、米のめし」。」でお知らせしたように、
おれが書くことなどありえないと思っていた『四季の味』という格調高い文芸誌のような食通誌に寄稿した。
その全文を、ここに掲載します。タイトルは「快食快味、米のめし」。
(2013年10月4日)




快食快味、米のめし。

 「気取るな、力強くめしを食え!」を掲げ、庶民の快食を追求する私としては、やっぱり行き着くところは米のめしだ。しかも、めしの上に、「おかず」というより「めしの供」といったほうがよい何かをのせ、混ぜながら食べる。あるいは、湯漬けや水漬けにする。なにより汁かけめしが大好きで、一週間に最低二回は、みそ汁ぶっかけめしが朝食だ。

 「のっけめし」というのか、「かけめし」というのか。サクサクかっこんで噛む、腹にズシンとおさまる。この食べ方ならではの快食快味だろう。懐石料理の大家といわれた辻嘉一さんが、みそ汁ぶっかけめしの味わいを、「痛快味」と表現したが、まさにその通り。

 そもそも私は、かの有名な魚沼産コシヒカリと同じ新潟県の魚沼産であり、今年70歳になるが、記憶にある限り米を食べて育っている。パンはおやつていどだったし、おやつだって、小さい頃はにぎりめしのことが多かった。

 最近、魚沼土産にしょうゆの実をもらったので、冷やめしに湯をかけ、その上にのせ、混ぜながら食べた。いやあ、そのうまいこと。ひとりで食べながら、思わず「もう一杯!」と声を出してしまった。しょうゆの実は、子供の頃から食べていた。しょうゆを造るときのもろみであり、大豆の旨味そのものだ。納豆とこれを混ぜてめしにのせて食べたら、うまさ倍増。きざんだ新鮮な野菜と混ぜて、めしにのせてもよい。

 焼みそもうまかった。これは炭火で作らないとうまくないから、長いあいだやってない。みそに好みの量の砂糖を練りこみ、ときにはネギをきざんで混ぜ、小皿に平に盛って、七輪の網の上にふせる。表面に軽く焦げ目がつくていどに焼く。皿から焼みそを取って湯漬けの上にのせるべく、焦げ目のある表面の薄い膜にはしを入れた瞬間、湯気と芳しいみその匂いが立つ。器を口元に運ぶと、その匂いが鼻先を包む。焼いたみその味は濃厚で、めしが一層うまい。ああ、思い出しただけでも、食欲がふくらみ、おかずになりそうだ。

 塩辛でも、佃煮でも、塩昆布などは上等なものがあって、湯漬けで食べると、快感が身体を駆けめぐる。湯漬けを強調しているが、水漬けでもよい。うむ、蒸し暑い夏には、キュウリとミョウガとナスの漬物を薄く切って混ぜ、水漬けで食べると、食欲がないときでも、シッカリ食べられる。このきざんだ漬物や野菜などを混ぜ合わせたものを、故郷では「きりざい」と呼んで、いまでも人気の食べ方だ。

 いろいろありますなあ。大根おろしをめしにのせて、しょうゆをたらすだけでもよいが、揚げ玉やしらすや瓶詰のえのきや生たらこなどをのせる。豆腐をめしの上でぐちゃっと手で握りつぶして、しょうゆをたらす。贅沢をいえば、きざんだねぎと鰹節があると、さらによい。焼いたシャケの切身の皮を残しておき、もう一度あぶって、めしにのせ、湯をかけて食べる。これでもう一杯余計に食べられるぐらいうまい。目玉焼きにしても、きざんだレタスかキャベツをめしの上にしき、のせる。ソースやしょうゆをかけ、好みによってマヨネーズやトマトケチャップなど、混ぜながら食べると、うまさが飛躍する。

 チョイと手をかけ、オイルサーディンを油ごとフライパンにあけ煮立たせ、しょうをたらし、からめる。めしにのせ、七味唐辛子やきざみネギをかけ、かぶりつく。森瑤子さんの小説『デザートはあなた』では、若い男女が「おいひい」と叫び「うめぇ」と唸る。

 残り物のみそ汁、めしにかけて食べるときは、一晩ねかせたほうがうまいぐらいだ。カレーライスのカレーだって、一晩ねかせたほうがうまい。あれは日本の汁かけめしですよ。

 しかし、日本全国の食事をにぎわしているのは、卵かけめしだろう。近年は、専用のしょうゆも人気だし、専門店もあるし、立ち食い立ち飲みの店のメニューにもなっている。

 米のめしならではの、楽しくてうまい快食快味、可能性は無限だ。